最近、入院患者さんに外国の方が増えたと感じている人もいるのではないでしょうか。外国人患者さんとの関わりでは、言葉が通じない点で困ることもあります。しかし地球人という分類では文化や習慣の違いはあれど、私たちと同じように食事をし、睡眠をとり、排泄をし、遊び、怒り、悲しみ、笑います。自分とは年齢層や性別、価値観が違う患者さんがいるように、外国人患者さんは文化や習慣が違う患者さんと考えれば同じです。世界にはどういった文化や風習があるか少し知っているだけでも、外国人患者さんの個別性を捉える手がかりになります。今回は特に特徴的なイスラム教徒の患者さんについてお伝えします。
ある日、イスラム教徒の患者さんがスマートフォンの画面を私に見せました。そこには『動物由来のものは宗教上の理由で摂取できません』と英語で書かれていました。そして、数日前に処方されたカプセル剤が入った袋を手渡したのです。
私は、いったい何のことかすぐにはわかりませんでした。
1.イスラム教のハラルとハラム
ハラルはイスラム教の教えで許された行為や物のことです。
ハラムは反対に許されない行為です。
イスラム教では基本的に、豚を不浄のものとしています。豚そのものはもちろん、エキスであっても口にすることは許されない、ハラムです。その他の動物の肉や血も、イスラム教の正式な方法で屠殺・調理され、ハラル認証を受けたもの以外はハラムです。アルコールもハラムです。
2.病院食とハラム
宗教の食事制限は、好き嫌いとは異なります。
料理酒やみりん・味噌・醤油などアルコールを含む調味料、ゼリーなどゼラチンを使用している食品は見落としがちなので注意が必要です。除けばいいという訳でもなく、同じ調理器具を使えなかったり、同じワゴンで運ばれるのもいけなかったりすることもあります。個人の宗教観によって禁止事項の程度も異なるため、どこまで配慮が必要か本人と相談し、対応が難しい場合は持ち込み食やハラル認証配食サービスを検討しましょう。
3.動物由来の製剤
冒頭でふれたカプセル剤についてですが、私は言われた時にピンときませんでした。
どういう意味か本人に聞くと、カプセルは豚から抽出したゼラチンを使っていることがあるとのことでした。最近は植物由来のカプセル剤が増え、動物由来は減っているのが現状ですが、存在することは事実です。イスラム教徒の患者さんには、代替できる薬剤があるなら、カプセル剤は処方しないのが無難です。
例えば、私たちがよく目にするヘパリンは、メーカーによりますが豚の小腸粘膜由来、インスリン製剤も製造工程で牛や豚由来のものが含まれます。ランソプラゾールカプセルはメーカーによってゼラチンを使用しているものと、トウモロコシデンプンを使用しているものがあります。
私が遭遇したケースは時間に余裕があったので、製薬会社の医薬品管理部門(DI部門)に問い合わせました。結果としては、魚由来のものを使っていました。この患者さんの場合、魚は大丈夫でしたが、カプセルはやはり心配とのことで薬効が似た錠剤に変更して対応しました。宗教の戒律の解釈や実践は、個人によって異なります。ただ、生命の危機にある時は使用してもいい場合もあるようです。大切なことは本人や家族に説明し、どこまで使用していいか聞くことではないでしょうか。
4.外国の文化や習慣は個別性の一つ
この患者さんは「製薬会社にまで聞いてくれてありがとう」と喜んでいる様子でした。私たちがゼラチン含有の薬剤を知らないことや、問い合わせに時間がかかったことで怒る様子は全くありませんでした。
慣れない外国人患者さんが来ても、難しく考える必要はありません。いつも通り一人一人の個別性と真剣に向き合うことが求められているようですね。
※免責事項
この記事は製剤中に動物由来の物質を全く含有していないことを保障するものではありません。 詳細は各製薬会社に確認してください。
この記事により発生した如何なるトラブルにも、著者・掲載者、製薬会社および関連組織は一切責任を負いません。
ライタープロフィール
【穂積育民】ナースLab認定ライター
愛知県出身。国際関係の大学在学中にカナダでワーホリ&バックパッカーの旅を経験。その後、看護師の道へ。小児、婦人科、腎臓内科、循環器ナース。応援ナースを楽しんだり、英語を活かせる医療機関で非常勤として働きつつ通信で勉強したり、自由な働き方を模索中。
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