精神科の治療を左右する!患者の回復を妨げない心理的距離を保つコツ4つ

精神科認定看護師 生和佐梛
精神科認定看護師 生和佐梛
精神科の治療を左右する!患者の回復を妨げない心理的距離を保つコツ4つ

精神科で治療を受ける患者さんは、病気により自我機能が弱くなり心も体も不安定な状態です。自我を補うために過度に他人への依存が起こりやすくなります。そのため、看護師は患者さんと心理的距離をとることが難しくなるのです。精神科では、患者さんの精神状態やパーソナリィーを理解しながら心理的距離を保ち、専門的な看護を提供することが求められます。精神科以外でも対人援助には心理的距離を保つことは大事です。そこで、今回は、回復が促進するよう信頼関係を築きながら心理的距離を保つためのエッセンスを紹介します。



心理的距離の近さは、看護師の患者さんに対する感情や気持ちに表れる

看護師が患者さんに対して、親しみを感じながら関わる態度は、心理的距離が近いと考えられています。例えば、母のような気持ちになったり、受容的な気持ちになったり、良くなるために一緒に頑張れているというような気持ちだったり。一方、患者さんに対して嫌悪感や不安感などを抱きながら関わる看護師の態度は、心理的距離が遠いと考えられます。上手く関われていない、気まずいなどの気持ちの表われです。
心理的距離を保つための4つのコツをみていきましょう。

心理的距離の近さは、看護師の患者さんに対する感情や気持ちに表れる


コツ1 看護師自身が自分の感情を理解しよう

心理的距離は、看護師自身の感情に影響されます。良くなってほしいと親密な気持ちが生じることは悪いことではありません。しかし、過剰になりすぎると患者さんの自律・自立・リカバリーを妨げる可能性があるのです。反対に看護師自身が嫌悪感などの気持ちを抱いていると、無意識に言葉や態度に表れます。患者さんが疎遠感や不安感を抱くため、信頼関係の構築が困難となります。そして信頼関係の構築ができていないと患者さんの治療や看護に影響を及ぼすかもしれません。また、否定的な感情を抱いている看護師の態度は患者さんへの虐待にもつながる可能性も。看護師は、まず自分の感情を理解することが大事です。自分の感情を理解することで、患者さんの状況や場面に応じた言葉遣いや表情を心掛けることができます。患者さんの表情や反応に注意しながらコミュニケーションを図りましょう。



コツ2 患者さんに対する偏見に気付いて修正しよう

看護師が患者さんに対して「この人は、○○だから」など偏見があると、冷静かつ客観的にアセスメントできず、治療や看護に影響を及ぼします。患者さんに対して決めつけて捉えていないか、偏見をもっていないか、問うてみましょう。他の医療従事者から意見を聞いてみるのもおすすめです。



コツ3 逆転移に気付こう

逆転移とは、看護師が過去に親や友人など特定の人との間で生じた感情や反応を、患者さんに対して無意識に向けることです。過去の未解決な感情が現在の関係に影響し、逆転移として現れます。看護師自身の問題であるのにも関わらず、患者さんの問題や感情であると決めつけてしまうからです。そのため適切にアセスメントできず、患者さんの治療や回復の妨げになります。看護師の個人的な感情が態度に表れるため、患者さんとの信頼関係構築にも影響するでしょう。また、未解決な問題を患者さんに再現することで、相手の感情に巻き込まれて精神的に疲弊するかもしれません。看護師は、自分の問題であると認識したうえで向き合う必要があります。逆転移に気付くためには、まず看護師が自分の感情を認識し、自己分析しましょう。自分の未解決な問題や感情が看護に影響を与えていないか確認することが大切です。



コツ4 バウンダリーを意識しよう

バウンダリー(境界線)とは「自分」と「他人」を区別する人間関係の境界線のことです。バウンダリーが保てないときに起こる問題は、相手との関係において「私は正しい」と考えることで、相手を尊重して対応できなくなること。感情的で攻撃的な態度となり、人間関係で問題が生じます。自分の看護観を正当化するあまり一方的な主張となり、チームとして協調性が保てないこともあるでしょう。摩擦が増え、職場の人間関係が悪化します。もう一つの問題としては、自分の存在価値を見出すために共依存の関係に陥ることです。患者さんから頼りにされ、感謝されると誰でも嬉しくなるもの。ポジティブな感情が生じることで「患者さんのために」という気持ちが強くなり、共依存の関係に発展することがあるのです。共依存は患者さんの自立・自律・リカバリーを拒むリスクや適切な看護を提供するのが難しくなる可能性があります。また「患者さんのために」と働きすぎることで、燃え尽き症候群などメンタルヘルスの不調をもたらすことも。とはいえ、母のように関わり、心理的距離が近いことで治療がうまくいくケースがあります。距離感を自覚したえで「共依存の関係ではない」「患者さんの自立・自律・リカバリーを阻害していない」「自分のメンタルヘルスが健康である」ことを確認しましょう。常に自分を客観視し、バウンダリーを意識しながら関わることが大切です。



まとめ

心理的距離の近さは、看護師の患者さんに対する感情や気持ちに表れる

より良い看護を提供するためには、看護師自身が自己と向き合い分析することが大事です。患者さんの回復を促せるよう、心理状態・病状・状況に応じて距離感を調整しながら関わりましょう。本記事が看護や対人援助職で尽力されている方のお役に立てると幸いです。


【参考文献】
1) 香月富士日:精神科における看護師の患者に対する心理的距離の関連要因.日本看護研究学会雑誌Vol.2 No1.105-1112009
2) 坂本真優,河村奈美子,清村紀子(2021).精神科病棟に勤務する看護師の患者-看護師関係における「巻き込まれ」の体験.看護科学研究19,21‐30.
3) 対人援助職のメンタルヘルスを改善する!バウンダリー(境界線)ラーニング「対人援助職のためのバウンダリー(境界線)チェックリスト」
(2024-4-13)
4) 対人援助職のメンタルヘルスを改善する!バウンダリー(境界線)ラーニング「燃え尽きを防ぐ!対人援助職のためのバウンダリー(境界線)基礎講座」
(2024-4-13)



~ライタープロフィール~

【生和佐梛】
精神科認定看護師・キャリアコンサルタント・公認心理師・産業カウンセラー・リフレクソロジーの資格を取得。メンタルヘルスの不調により休職した方への復職を支援しています。


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