継続看護の実際を知ろう!退院後の在宅緩和ケア成功のため、時期別に大事にしたいこと

ナースライター 吉村元輝
ナースライター 吉村元輝
ナースあるある~派遣ナース編~

『在宅緩和ケアの成功とは?』と考えると、その要素は多岐に渡りますが、重要なことは、患者さんご本人の希望が最期まで大切にされ、その人らしく生き切ることができること。そしてご家族がその思いを支えられたと感じられることではないかと思います。
高齢多死社会の日本で在宅緩和ケアは心不全や肺疾患、神経難病など幅広い疾患への対応が求められます。私見ですが、その中でも末期のがん患者さんへの在宅緩和ケア実践は、症状緩和のケア技術や意思決定支援の経験が得られ、その他の疾患にも展開が可能だと思います。今回は末期のがん患者さんへの退院後の在宅緩和ケアについて、時期別にどんなことが大切になるのか考えていきます。


在宅開始期:退院当日~1週間

<先回りの症状緩和>

退院当日から1週間は病院から帰宅後の不安が非常に強い時期です。患者さんが帰宅した翌日が最も医療機関への緊急連絡が多く、退院後1週間までが緊急訪問が最多となります。1)この期間は生活を再構築しながら、患者さんとご家族が予想していなかった出来事に直面しないように支えることが重要になります。


具体的にはがん種によって想定できる、痛みや嘔気、呼吸困難に対する対処方法を医師と相談し、対処の薬剤やケアを患者さんとご家族に事前に理解していただくことです。事前に説明されていることで症状出現時も想定内の出来事として、看護師と共に対応が可能となります。退院当日はその準備のためにもできる限り医師とケアマネージャーと時間を合わせ看護師も訪問をすることが良いと思います。


<我が家の満喫と関係構築>

しかし、退院当日は『やっと帰ってきた我が家』で心穏やかに過ごしていただくことも重要なことです。症状悪化のリスクのため、あれこれ自宅生活を制限すると、せっかく我が家に帰ったのに自由が奪われたと感じ、訪問サービスを拒否されてしまう可能性もあります。


退院当日は、今日の夜に困るかもしれないことを具体的に相談し、それ以外のことは翌日以降にゆっくり相談するなどの臨機応変な対応も心がけましょう。そのためにも退院後1週間程度は積極的に訪問しながら関係構築を進め、その中で不安の解消と生活再構築をお手伝いして、徐々に訪問頻度を減らしていくことも良い方法だと思います。


生活安定期:1週間~病状安定期

<生きる希望と人生会議>

退院して1週間経つと、我が家の環境と家族との穏やかな時間に比較的安定した生活を送ることができる人が多くいます。精神的・社会的な安定が身体症状を安定させることもあると思います。この時期は、ご本人の生きる希望を精一杯支える時期です。そのために人生会議を進め、何がしたい・何が食べたい・誰と話したい・どんな景色がみたいを実現していきましょう。


「どこで死にたいか?」という死に焦点を当てた問いではなく、「どのように過ごしたいか」を共に考えることが大切だと思います。そのために必要な症状緩和のケア方法や生きる希望を問うためのコミュニケーション技法などを準備しておくことが重要になります。そして、医師やケアマネージャーを含めた多職種連携では、その希望を実現するために協働することが大切です。生きる希望への支援を通じて多職種で考えを共有していくことが、在宅緩和ケアを支える地域へと成長するための鍵となると私は考えています。


生きる希望と人生会議

病状変化期:病状変化期~看取り前期


<変化のサインと看取りの説明>

病状が安定して過ごせている時間が、ずっと続くように感じられる患者さんやご家族もいますが、末期のがん状態は必ず病状変化の時がきます。その変化は急激であり、一気に生活が不安定になることも多くあります。この時期に多くなる症状である倦怠感や食欲不振の増悪2)を見逃さず、医師と密に情報共有しその時に備えた説明をしていく必要があります。

説明は職種で判断ではなく、誰がすることが最もご本人とご家族が受け止めやすいかを考えることが良いと思います。もちろん医師から説明していただくことが多いですが、場合によっては看護師からの説明で受け止められることもあります。医師とも相談したうえで看護師からパンフレットなどを用いて、看取りに向けた変化をお伝えすることも良いと思います。看取り前1ヶ月程度でご家族へ説明をすることが良いのではないかという見解もあり3)、タイミングをみながらお話しをしていきましょう。

パンフレットは後から見返すことや、同席できなかった親族へ説明を受けたご家族から伝えることにも活用でき、医療者として伝えたいことが正しく伝わることにもつながります。ぜひ、連携する医療機関がどのような説明パンフレットを使用しているかを把握されておくことをお勧めします。


<看取り期における麻薬導入>

看取り期には症状緩和に医療用麻薬を使用することが多いです。苦痛症状があれば、できるだけ体調の安定した時期から麻薬導入することで、副作用対策もでき導入しやすいことがあります。しかし、麻薬使用を嫌がられる方もいるため、看取り期に入って麻薬導入となる方も少なくありません。この場合は、初回の麻薬使用は低容量のレスキュー薬で開始し、そこに医療者が同席することをお勧めします1)

看取り期には麻薬の作用で傾眠となったり、麻薬の使用に関係なく状態が悪化してしまう場合もあり、その際に死別後にご家族は自分達が薬を使ったことが死期を早めたのではないかと思い悩んでしまうこともあります。事前の十分な説明を経た上で、医療者と共に考え実施することでご家族が責任を一手に背負うことがないように心がけましょう。


看取り期:看取り後期~グリーフケア

<最期まで対話が大切>

看取り後期はいよいよ別れのときが近づいて、昨日できたことが今日できなくなっていたり、午前中できたことが午後できなくなるという速度で変化していくこともあります。この状況にご家族は不安を覚えることもあるため、看護師として落ち着いた姿勢と口調で、今の状況をお伝えします。ご家族によっては、病院へ搬送して治療を希望される場合もあります。その際には主治医と相談し、患者さんとそのご家族の望みを叶える話し合いをしましょう。

その意思決定支援はこれまで人生会議で話し合ってきたプロセスと身体症状、介護の状況など総合的な判断が必要となります。話し合いの中で患者さんやご家族がこれまで何を望んできたかを思い起こすことができると良いと思います。そのプロセスが看取り後に介護をやり切ったという思いにつながり、ご家族が複雑な悲嘆反応を起こさないためにも大切な時間となると考えます。そして看取り後に訪問看護師として、自宅を訪問して介護を頑張ってこられたことへの承認をすることでグリーフケアをお届けします。


最期まで対話が大切

まとめ

在宅緩和ケアは時期別に考えるポイントが異なるとお伝えしてきました。ただし、その軸は患者さんご本人の希望を尊重することにあると思います。その軸をご家族を含めたチームみんなで大切にし、患者さんの希望を叶えるために必要なケアは何かを考えることが、在宅緩和ケアを成功させるためにはとても大切だと思います。人生を最期まで自分らしく生きることができたと感じられる在宅緩和ケアを届けるため、これからも頑張っていきましょう。



引用参考文献

1. 市橋亮一,紅谷浩之,竹之内盛志 編著:在宅医ココキン帖 へるす出版
2. Lev D Bubis, Laura E.Davis, Hera Canaji, et al. Patient-Reported Symptom Severity Among 22,650 Cancer Outpatients in the Last Six Months of Life. J Pain Symptom Manage.2020 Jan:59(1):58-66
3. 山本亮 他 看取りの時期が近づいた患者の家族への説明に用いる『看取りのパンフレット』の有用性 : 多施設研究  Palliative Care Research 2012; 7(2): 192-201
4. 市橋亮一,若林英樹,荒木篤 著:がん患者のケアマネジメント 在宅ターミナルを支える7つのフェーズ・21の実践 中央法規




ライタープロフィール

【吉村元輝】
緩和ケア認定看護師として大学病院で緩和ケア経験を経て、訪問看護で在宅看取り支援に携わる。在宅看取り率向上への取り組みを継続しながら学修も続け、名古屋大学大学院を修了。看護協会委員や講師活動も担う。
みんなのかかりつけ訪問看護ステーション
https://kakaritsuke.co.jp


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