高齢者施設は療養しながら生活する場であり、人によっては人生の最期まで過ごす場所になります。施設で出来る治療や検査は限られますが、様々な疾患を持つ高齢者の経過を長期に見守ることができるという特徴があります。
今回は特別養護老人ホームや介護医療院で勤務経験がある筆者が、高齢者の療養施設ならではの「看護師あるある」をお伝えします。
目次
1.リクライニング車いすが大活躍
高齢者施設ではリクライニング車いすが大活躍します。身体の麻痺や拘縮などで座位を保てない方が多いためです。イベント時はリクライニング車いすの台数が足りず、レンタルすることも。
ご家族の面会時や病院受診時にも必要ですが、たまにはのんびりお散歩で使いたいものです。
2.介護職員と意見が合わない?!
高齢者施設では看護師よりも多くの介護職員が勤務しています。ときには看護師と介護職員で意見が合わない場合があります。
たとえば内服薬を錠剤のまま準備するか、粉状につぶすかで意見が分かれた経験があります。ある認知症の女性は嚥下に問題がないため、粒状でも飲み込めると看護師は捉えていました。しかし介護職員から毎回薬をつぶしてほしいと要望があったのです。
疑問に思い話を聞くと「粒状だと口にため込み、最後には薬の粒を吐き出してしまう」とのことでした。理由を聞いて納得できました。その後、薬を粉状につぶす必要がある入所者さんを介護職員と一緒に考え、見直しをしました。
食事介助など日常生活のケアをする機会が多い介護職員の方が、ご本人の様子をよく把握していることがあります。お互いが専門職として尊重し合い、情報共有や意見のすり合わせが大切ですね。
3. お話できない方が多く、観察力が磨かれる
施設では認知症や老衰の進行、言語障害などでお話できない方が療養生活を送っています。意思表示できない方へのケアを通して、観察力が磨かれます。
たとえば職員の「何かいつもと違う」という感覚や気づきはとても大切。体調不良の前兆かもしれません。朝から何となく活気がないため気にしていると、午後から発熱したという場合も。
バイタルサインだけでなく、表情、顔色、皮膚の色や温かさ、力の入り具合、声かけに対する反応、嚥下状態などあらゆる角度から観察します。お話できない方の小さな変化を見逃さないよう、常に気を配っています。
4.食事・水分が摂れなくなったときどうする?に向き合う日々
入所期間が長くなり年を重ねると、徐々に嚥下機能が低下してきます。口から食事・水分が摂れなくなったとき「どこまで治療を望むのか」という話になります。
医師や栄養士とも相談しながら、ご本人やご家族の意向を伺います。胃瘻造設や経鼻経管栄養を望む方もいれば、栄養注入は望まないが点滴だけして欲しいという方もいます。また栄養注入や点滴はせず、自然な形で看取りたいという意向の方もいます。
治療の選択に迷うご家族との話し合いに立ち会う際、どんな声かけや関わりをしたらいいのか、私自身も悩みます。迷うご家族の話を聞き個々の価値観や人生観に触れながら、日々学ばせていただいています。
5.救急車への同乗や病院受診の付き添いあり
施設では出来ない検査や治療のため、病院へ搬送することもあります。急を要し、ご家族が間に合わないときは、看護師が救急車に同乗する場合があります。
救急隊員から矢継ぎ早に質問を受け、平静を装いながら答えたことも。また体調不良者を介護タクシーで搬送する際に、付き添うこともあります。
移動中に安静が保てず危ないときや、状態が悪く目が離せないときなどです。病院までの移動中に状態が悪化しませんようにと願いながら付き添います。
6.看取りに立ち会う機会が多い
高齢者施設では看取りに立ち会う機会が多く、たくさんの方の最期を見届けてきました。ご家族から感謝の言葉をいただいたり、思い出話を聞いたりします。
たとえば社会で活躍していた頃の話、結婚や子育てのこと、どんな価値観で生きてきたかなどです。
あるご夫婦の話です。
いよいよ最期のときが近づいてきた夫に会うため、奥様が施設に来られました。面会を終え、部屋から出てきた奥様が「今ね、ありがとう。愛しているって夫に言ったの。そしたら少し首を動かしたのよ」と涙ぐみながら教えてくれました。
ご本人は寝たきり生活が長く体は拘縮しており、声かけに対する反応はほとんどありません。でも奥様の声はきちんと届いたようです。生きている間に会えるのは、もう最後かもしれないと奥様は覚悟している様子でした。そして翌日にご本人は旅立たれました。
高齢者施設では、ご家族との関わりを大切にしながら看取り期の経過に最後まで立ち会える特徴があります。また看取りに至るまでの経過は人それぞれ違い、毎回学びがあります。
まとめ
今回は高齢者施設の「看護師あるある」をご紹介しました。施設看護師は医療面と生活面の両方を大切にした関わりが求められます。またご家族への配慮やコミュニケーションも大切です。
一人の高齢者と時間をかけて関わりたい方、看取りを学びたい方に興味を持っていただけたら嬉しいです。
~ライタープロフィール~
【あき】ナースLab認定ライター
看護師歴17年目。ICU、急性期内科病棟、特別養護老人ホーム、介護医療院での勤務歴あり。子育てのため在宅ワークに興味を持ち、看護師を続けながらライター業をはじめる。看取り、看護、介護についてブログで発信中。
ブログ:https://ameblo.jp/akikogoon