皆さんが日常で何気なく使用している爪切り。その使い方は本当に正しいのでしょうか? 爪を切る際、肉まで切ってしまわないかドキドキしたり不安になったりした経験をお持ちの方も少なくないと思います。患者さんの爪切りを安全に実施するためには正しい使い方が重要です。最後までお読みいただくことで爪切りに対する不安が軽減できると思います。ぜひ、今日から試していただけたら嬉しいです。
爪切りはこう使う
爪切りの際に使う道具はよく市販されている、いわゆる爪切りが一般的。最近ですとガラスヤスリなどのヤスリやニッパーなどを利用している方も増えてきたかもしれませんね。ここではニッパーや爪切りなどの刃物の使い方をご案内します。
まず、どちらも共通して大切なことが4点あります。
① 足の爪切りは刃先がまっすぐ(ストレート)
② 爪切りの上と下&ニッパーの向き
③ パチンと一気にたくさん切らない
④ 爪の下に置いた刃は絶対に動かさない
⑤ 表情を確認する
それぞれを解説しましょう
① 爪切りは刃先がまっすぐ(ストレート)
市販されている爪切りの刃先はカーブしているものが多い傾向です。市販の爪切りで切ってはいけないわけではありません。しかし、カーブしている爪切りを使用すると自然に指のカーブに沿った形に切ってしまいがち。巻き爪や深爪を予防するためにも足の爪はスクエアオフという切り方が推奨されています。
② 爪切りの上と下&ニッパーの向き
爪切りもニッパーも刃の向きがあります。
爪切り:手で握る際にヤスリがついていてクルンと向きを変えられる側、こちらを上に使います。
ニッパーは横から見るとこのようになっています。
この平らな面を患者さんの体の方に向けて刃先を当てます。
③ パチンと一気にたくさん切らない
切り慣れたご自分の爪は1枚の爪を切るのに何回パチンと挟みますか? 小さな指だと1回だけなんて人もいるかもしれません。
皆さんに爪切りを依頼する方の多くが高齢の方や強い巻き爪、厚い爪、硬い爪をお持ちの方ではないでしょうか。これらの方々に対して一気に爪を切ると「端が割れる」「深爪になる」「ジワジワと血が滲む」「肉まで切る」「他者に爪を切ってもらう際に恐怖心を植え付ける」などが起きやすいものです。切る前には必ず皮膚と爪の乖離部分を確認したうえで、2~3mmずつ切りましょう。
爪切りは刃物であり他者に頼むことで不安や恐怖心が高まるケアです。そのうえ足を見せる羞恥心も伴います。みなさんにとってはたかが爪切りかもしれませんが、誰にも頼めず鳥のクチバシのように延びた爪の方もいます。「怖い」「恥ずかしい」「誰に頼めばいいかわからない」方は延びる爪がストレスにもなることも。足元が整わない状態は歩行や爪剥がれなど、安全面においての危険性も高まります。安心して爪切りをお任せいただくために、忙しくても焦らず少しずつ爪を切りましょう。
④ 爪の下に置いた刃はセットしたら絶対に動かさない
爪切りでもニッパーでも共通して最も大事なことは、爪の下に置いた刃はセットしたら絶対に動かさないことです。皮膚と爪が乖離した部分の爪の下に刃を挿入してセットするのですが、爪の下側の刃(下刃)は動かしてはいけません。もし動かしてしまったら、再度切る位置を確認してセットします。爪の上からの刃を動かし爪を切断することで、誤って肉を切ってしまうことはありません。肉を切ることは下刃が爪だけでなく、肉を挟んだ状態になるために起きる悲劇です。皮膚と爪を十分に乖離すれば、肉を切ることはありません。厚い爪や硬い爪を力任せに切ろうとすると下刃が動きやすので、どんな時も少しずつ無理せず切ることを心がけましょう。
⑤ 表情を確認する
道具の使い方ではありませんが、爪切りに夢中になると爪にばかり意識が向きやすいものです。そのため、あえて付け加えました。体勢が辛くないか状態に変化がないか、苦痛がないかなど、必ず表情と全身の観察を怠らずにケアしましょう。また、爪切りなどのフットケアは一定の時間を要しますので、コミュニケーションを通してACPにつながるようなお話を伺うことも可能です。
爪は皮膚と同じケラチン
皮膚は年齢とともに水分を保つ力が低下し、シワができてきます。実は爪も皮膚と同じケラチンで作られているため、若い頃に比べ少しずつ年齢とともに硬さや柔軟性が変化します。例えば少し切っただけで亀裂が入ってしまったというのも乾燥や柔軟性の低下に関係します。つまり、パチンと切る際の分量が長くなることで、カーブしているはずの爪の両端にかかる負荷がかかり、爪が割れてしまったり亀裂が入ってしまったりするわけです。
そのため、爪母(爪の生え際あたり)にオイルを一滴垂らして軽くマッサージするように馴染ませるケアは、年齢に伴う変化が気になる爪のお手入れにおすすめです。
何事も基本に基づき安全なケアを
「爪切りは教わってきていないから学ぶ必要性が低い」といった勘違いは禁物です。フットケアはご存知の通り刃物を用いるケアですので、とても気をつけなければなりません。
ケアしていると、過去の自身の体験を思い出して語られる方も少なくないでしょう。たとえば、「爪切りをよくやってくれていた人がいたけどよく肉まで切られた」と笑い話として話されますが、まったく笑えません!フットケアでの「受傷」は日常活動への影響があるうえに、転倒のリスクを高めたり感染源になり得たりするのです。しかし「受傷」した経験談やそれにまつわるお話は正直後を断ちません。
「なんとなくから確実なケアへ」爪切りの使い方からしっかり学んで、私たちの力で1人ひとりの生活を守っていきましょう!
ライタープロフィール
【木嶋千枝(きじまちえ)】 Abeby 代表/大誠会内田病院
健康維持や健康寿命延伸には身体の基礎部分である足や靴が重要で、靴の履き方や選び方などの生活習慣が要なんだと声を大にする慢性疾患看護CNS。
自分らしいと思える時間を積み重ねてもらうためには足育が必要だと一念発起し、病院を飛び出し2019年Abeby起業。寄り添う看護を目指して取得した日本認定心理士や日本糖尿病療養指導士としての知識や技術を最大限に活かして、啓発活動や教育にも力を注いでいる。子どもとおとなの足靴カウンセリングサポートを群馬の自宅で開始。
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