バイタルサインといえば何を思い浮かべますか? 体温? 脈拍? SpO2? いろいろあると思いますが、安心できないという意味で血圧値には注意が必要です。血圧が低い場合は数値からすぐに対応しようと気付けるので有用ですが、血圧がいつも通りの値でも、安心するのはまだ早いかもしれません。今回は血圧に関する異常を早期発見するコツを例に、フィジカルアセスメントについて一緒に考えていきます。
1. バイタルサインって何?
バイタルサインとは一般的に、体温や脈拍、呼吸、血圧、SpO2のことです。多くの場合、意識レベルや尿量、疼痛なども含まれます。バイタルサインは生命の徴候という意味ですがこれという決まりはないため、食欲もバイタルサインに組み入れていいのかもしれません。
2.血圧は、ホメオスターシスの影響を大きく受ける
バイタルサインはホメオスターシス、つまり恒常性の影響を強く受けます。例えば出血していたとします。量にもよりますが、出血したからといってすぐに血圧が下がるわけではありません。血圧の構成因子は、一回心拍出量×心拍数×末梢血管抵抗です。一回心拍出量は循環血液量と心筋収縮力に影響を受け、末梢血管抵抗は、血液粘度、血管壁の弾性、血管床の面積により変化します。
よって出血すると当然、循環血液量は減少します。そのため血圧は下がりそうですが、代償により尿の生成を低下させ、血管が収縮することで血圧は維持されるのです。また、酸素運搬能を維持するために脈拍は速くなります。さらに末梢の血管が収縮することで手足は冷たくなります。代償で補えなくなると血圧は下がりますが、出血してもすぐに血圧が下がるわけではないので「血圧が下がっていない」ことは安心材料にはならないのです。ですから看護師は、それぞれのバイタルサインの意味を洞察する必要があります。
3.異常の見抜き方のコツ
ではその異常を見抜くにはどうしたらいいのでしょうか?最も大事なことは「主訴」は何かです。例えば消化管出血があった場合、患者さんから「消化管出血っぽい」と言われることはまずありません。多くは「気分不快、吐き気、めまい」と言われると思われます。そこから、「顔白が悪い、閉眼している、脈が速い、呼吸も速い、手足が冷たい、そう言えばこの患者さん、抗凝固薬あるいは抗血小板薬を飲んでいる・・・」といった情報、つまりは所見を確認し、「消化管出血で矛盾が無い」ということを突き止めます。この過程がフィジカルアセスメントであり、異常を見抜くコツです。
4.診断は医師、診断に必要な情報の提供は看護師
例に挙げた、消化管出血の疑いがある患者さんの場合、「患者さんが気分が悪いと言っています。」と看護師が医師に報告しても忙しい医師は困惑するだけですぐに適切な対処ができるとは限りません。我々看護師は、診断に結びつく情報を提供する必要があります。それこそが診療の補助です。
看護師の役割はみなさんもご存じのとおり「療養上の世話」と「診療の補助」があります。
日本看護協会の看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド1)に、患者を選定せずプロトコールを用いて検査の判断と実施についての記載があります。侵襲度の高い手順書による特定行為とは別に、プロトコールによる検査の実施判断も看護師の役割とのことです。主訴とバイタルサイン、身体所見だけでは正確な評価は難しいため、必要に応じて検査を実施することが求められる時代となっています。
出典:日本看護協会「看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド」P13図表4,2022年6月15日
まとめ
バイタルサインから異常を見抜くコツは、とにかく話を聴くことです。話を聴くことは看護師であれば「得意」な方もおられるかもしれません。しかし、個人的な印象としては苦手な方が多い傾向です。看護師の視点で話を聴くというと「傾聴による不安の表出」が印象的ですが、アセスメントの場合における話を聴くとは「質問する」ことです。話を聴き、考えられる疾患を類推し、必要な身体所見を確認していく。そのうえでバイタルサインに矛盾が無ければ判断を大きく間違えることはありません。一方で高齢者や小児、ICUでは質問できない場合も少なくありません。バイタルサインの因果関係を見抜き、患者さんの声なき声を聴いていきましょう、バイタルサインは皆さんに苦痛を聴いて欲しがっています。
1)参考引用文献:看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド(2024年5月11日閲覧)
~ライタープロフィール~
【青柳 智和】
1999年日立メディカル看護学院を卒業後、循環器病棟、手術室、E R、ICUなどで勤務する。2006年より出直し看護塾を主宰、誠潤会城北病院にて看護師長、管理課長となる。2015年東京医療保健大学大学院 高度実践看護(NP)コース修了(看護学修士)、2017よりS-QUE研究会 特定行為研修アドバイザー。水戸済生会総合病院 総合内科診療看護師、看護師特定行為研修責任者として研鑽を積む。2020年よりオンラインサロン出直し看護塾を主宰、2022年高知大学大学院修了(医学博士)。2023年看護師によるプロトコールの使用を推進するために、臨床看護プロトコール研究会2)を発足させ、実力をつけるためにフィジカルアセスメント認定士試験3)を受験。(受験無料)。フィジカルアセスメント認定士
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