糖尿病の治療薬は多くて複雑だと感じる方は多いのではないでしょうか?現在、糖尿病治療薬はインスリン製剤を除き9種類もあります。これらの治療薬の多さも糖尿病の理解を難しくさせる一つの要因になっているのかもしれません。今回は、糖尿病治療薬の概要を説明するとともに、これだけは覚えてほしい最近の治療薬トレンドに絞って説明していきたいと思います。
1.国内の糖尿病治療薬と最近のトレンド
先ほどお伝えしましたが、現在国内で販売されている糖尿病治療薬はインスリン製剤を除き9種類あります(表)。グリメピリドなどのスルホニル尿素(SU)薬は古くからある有名な薬ですので、知っている方も多いのではないでしょうか(逆に知らない方は若い!?)?これらの治療薬の機序は、大きく「インスリン分泌促進系」と「インスリン分泌非促進系」に分けられます。これは、自分の体(膵臓)から出るインスリンの分泌を応援する薬か、はたまたインスリンの分泌を応援せず、他の部分にはたらきかけて治療するかという違いになります。最近の糖尿病治療薬の特徴は、何といっても低血糖を起こしにくい薬が増えたことにあります。その中でもこれだけは覚えておいてほしいという糖尿病治療薬は「GLP-1受容体作動薬」と「SGLT2阻害薬」の2剤になります。
参考文献:日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2022-2023 文光堂:40-41, 2022
2.インスリンと間違えないで「GLP-1受容体作動薬」
GLP-1受容体作動薬は、現在の糖尿病治療になくてはならない存在と言っても過言でないほどトレンドの薬です。皆様も臨床現場やメディアで一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。週に1回の注射薬があることからインスリン注射と間違える看護師さんもいるかもしれません。この薬の作用はインスリン分泌を応援する(インスリン分泌促進)ことですが、血糖依存的である点が特徴的です。つまり、血糖値が高い時にはインスリン分泌を促しますが、血糖値が低くなってくるとインスリンの分泌を促さないため、低血糖を起こしにくいということが重要なポイントになります。また、この薬には他にも様々な特徴があり、注目すべきは胃内容物排出抑制作用と食欲抑制作用になります。これらの作用により体重低下が期待され、肥満が原因で糖尿病になっている患者にとってはとても相性の良い薬といわれております。最近では、抗肥満薬としても承認されています。GLP-1受容体作動薬には、毎日投与する注射薬や週に1回の注射薬、経口薬もあります。副作用で注意することは、下痢、便秘、嘔気といった胃腸症状です。高齢者などでは食欲低下をきたし、サルコペニアの原因となることがあるため注意が必要です。
3.もはや糖尿病治療薬にとどまらない「SGLT2阻害薬」
SGLT-2阻害薬も非常に有名な薬です。読者の中に「あれ?これって糖尿病の薬だったの?」と思われた方がいらっしゃったら、循環器内科や腎臓内科で働いている看護師さんだと思います。このSGLT2阻害薬は、近位尿細管でのブドウ糖の再吸収を抑制することで、尿糖排泄を促進し、血糖低下作用を発揮します。つまり、おしっこから糖分を出して血糖値を下げるという極めてシンプルな作用の薬であり、体重低下も期待できます。しかも、必要以上に尿から糖分を出さないため、低血糖を起こすリスクは低いです。この薬が有名になったのは、心保護作用と腎保護作用を有することから、慢性心不全と慢性腎不全にも適応になったことがきっかけです。そのため、現在では糖尿病領域だけでなく、幅広い領域で使用されています。副作用で注意することは、浸透圧利尿作用による脱水と、尿糖排泄による尿路感染症・性器感染症(特に女性)になります。また、この薬は強制的に尿糖を排泄することから、血糖値が上がらないままにケトアシドーシスを起こすことがあります(正常血糖ケトアシドーシス)。過度の糖質制限をしている人や、食事摂取量(特に糖質)が落ちている患者さんは注意が必要です。
まとめ
今回は糖尿病治療薬を最近のトレンド2剤に絞って説明しました。糖尿病治療薬は他にもたくさんありますが、まずはこの2剤を理解してみると少しは糖尿病への抵抗がなくなるかもしれません。まずはよく使う薬を覚えて、それからいろいろな薬を調べてみましょう!
ライタープロフィール
【山﨑優介(やまざきゆうすけ)】広島市立北部医療センター安佐市民病院
糖尿病看護認定看護師、特定研修(糖尿ケア分野)といった糖尿病に関する資格だけでなく、3学会合同呼吸療法認定士や福祉住環境コーディネータ2級を有する。現在、大学院博士課程後期に進学しており、研究、管理、教育、実践のバランスの取れた看護師を目指している。
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