「やってしまった・・・」
背筋が凍るこの瞬間を経験してきたナースは数知れず。時には、仕事まで辞めたくなってしまう原因にもなりかねません。しかし、失敗をするのはあなただけではありません。ベテランがどっしり落ち着いているのは、何度もつらい経験を乗り越えてきたからこそ。今回は失敗後によく遭遇する出来事と対処法についてご紹介します。
1.沈黙の駆け引き
ミスが発覚したときに悩むのが「誰が事故報告書を書くのか?」という点。施設や病棟ごとにルールが違う場合があるので、当事者か発見者なのかははっきりしません。なかでも、当事者が休憩中に他のスタッフが発見した場合です。お互いが無言になった時、それは試合開始のゴングが鳴る時です。周りからはわかりませんが、二人の沈黙の中では激しい戦いが繰り広げられています。そんな時は、管理者に判断を任せるのが無難です。ゴングが鳴ってしまう前に決着をつけましょう。
2.奇跡を願う確認作業
「もしかしたらこれは失敗ではないかもしれない」。そんな淡い期待によって、自分の頭の中で繰り広げられる事実確認。まるでサスペンスドラマのように、あらゆる角度から出来事を推理していきます。ただ最終的に行き着くのは、やっぱり失敗だったという悲しい結末。考えれば考えるほど、すべての証拠が失敗を裏付けていきます。その時の心境は、荒れ狂う海の上の崖で追い詰められる犯人そのもの。頭の中では「私が悪かったんです...!」と泣いて膝から崩れ落ちていきます。何度確認しても変わらないことはしっかり受け止めて、自分がすべきことをしていきましょう。
3.ささやかれる定番フレーズとは!?
失敗が何度も続いた時には、運や悪霊のせいにしたくなることがありませんか?すべて完璧なんて人は、この世に存在しません。それでも間違いを連発する時、どこからともなく「取り憑かれてるんじゃない?」とヒソヒソ声が...。先輩や同僚に“おはらい”をすすめられる様子は、看護師業界ではもはや日常茶飯事かも。
4.おさえきれない欲望
落ち込んだ時、心の隙間を何かで満たしたいと思うのはあなただけではありません。「ヤケ食い」や「衝動買い」など、普段しない行動をしてしまいがち。ダイエットや節約なんて言葉は、有無を言わさず頭の中から追い出されます。ただし欲求のままに行動すると、数日後にちゃんと結果として返ってくるので要注意。一時的な爽快感と引き換えに、違う意味での「やってしまった」出来事が誕生します。振り返った時に後悔しないように、あなたのストレス発散行動をストックしておきましょう。
5.タイムマシンの存在を心から願う
「後悔先に立たず」という言葉があるように、起こってしまったことをいくら悔やんでも仕方ありません。頭ではわかっていても、「事故が起こる前に戻れたら...」と奇跡を願ってしまう心の奥の叫び。そんな魂の声を聞いた人は、一人や二人ではないはず。映画のようにタイムマシンに乗って、過去に戻れたらどれほど素敵でしょう。過去に戻った妄想の中の自分は、ヒーローのように事故を予防し何事もなくまた未来へ戻っていきます。しかしあくまでも妄想。“ハッ”と目を覚ました世界はなにも変わらない現実です。それよりも事故への対処や、通常業務など、しなければならないことが山程あります。追われるように目の前の仕事に無心で取り組んでいくと、やがて一段落。そしてまた私たちは妄想の世界へ旅立ってゆくのです。残酷ですが、この対処法はただ一つ。それはタイムマシンに乗らないことです。
6.同じミスなのに自分だけ怒られ方が違う
「Aさんは失敗してもちょっと注意されるだけなのに、私の時はめちゃくちゃ怒られる」。多くの若手看護師は、こんな理不尽と感じる場面に遭遇したことがあるのでは?自分だけ強い言い方をされると、誰でも落ち込んでしまいます。周りと比べられているように感じたり、時には人格さえ否定されている気持ちになってしまうことも。相手の気分や機嫌もあるかもしれませんが、一人ひとりに合わせた指導法なのかもしれませんよ。また、大切なのはその後にどう行動を変えるかということ。「私だけ強く怒られた」ということよりも、「じゃあ次はどうすればいいのか?」という視点に変わると、考え方や行動にも変化があらわれますよ。
7.振り返った時のアセスメント力に神がかる
「マニュアルを守らなかった」「忙しくて忘れてしまった」などミスを起こす原因はさまざま。その時には気づかなかったことも、後になって考えると多くの発見があります。振り返る時の視点はいつもの数倍の鋭さになり、「そういえばあの時...」とささいな変化まで思い出します。冷静になると事故につながった原因や、どうすれば予防できたかがハッキリ見えてきます。「なぜ事故の前に気づけなかったのか」と後悔したことは誰でもあるはず。ただこうした経験と振り返りを重ねることで、私たち看護師は次のステップへと成長していけるのです。
8.先輩からの声かけにビクビクする
失敗が続き自信を失っている時は、周りのスタッフからの声かけに過剰に反応してしまいます。「また間違いを指摘されるのでは?」と心の中でおびえる様子は、まるでヘビににらまれたカエルさながら。先輩から「Aさん(患者さん)のお昼の薬のことなんだけど...」と切り出された時には、固まってしまう以外の選択肢はありません。ただ、そんな時こそ自分を振り返るチャンスです。ルールやマニュアルを守って仕事ができているか、根拠のある看護をしているか、見つめ直してみましょう。自分の行動を一つひとつ説明できるようになった時、あなたのEBM(Evidence Based Nursing:根拠に基づいた看護)が始まります。
9.積み上げた自信が一気に崩壊
失敗は、自信を簡単に崩壊させます。知識や経験を身につけ、丁寧に積み上げてきたものの、突然ガラガラと音を立てて崩れてしまいます。一度バラバラになってしまったら、最初からやり直すしかありません。それはとても長く、地味で、大変な道のりかもしれません。時には、心がくじけそうになることもあるでしょう。ただそんな経験こそが、あなたを看護師として、人として成長させてくれるのです。
10.まとめ
誰でも失敗はできるだけ減らしたいですよね。患者さんの命を預かる私たちの仕事は、ささいなミスでも重い責任があります。ただし振り返った時に、自分を責めすぎないことも大切です。失敗して落ち込んでも、乗り越えて成長していく。そんな経験を積み重ねて、あなたらしい看護師を目指していきましょう。
~ライタープロフィール~
【野田裕貴】ナースLab認定ライター
大学病院で11年勤務し、血液内科、緩和ケア、ICUを経験。新しい働き方にチャレンジするために、看護師ライターへ転身。現在はWEBサイトへの執筆、看護大学の非常勤教員、老人保健施設の夜勤を兼任するパラレルワーカー。多くの人の最期に関わってきた経験から、人生や命について情報発信するメディアを運営中。