若手看護師の育成は、多くの職場で共通する課題です。教育方法は病院や施設によってもさまざまですが、忙しい業務と並行に指導するのは難しいもの。試行錯誤しながら指導を行うものの、上手く伝わっていない…。今回はそんな悩みを解決するために、後輩指導に使える心理学のテクニックをご紹介します。
目次
1.相手に合わせる「ペーシング」
人間関係の基本となる「信頼」。この信頼関係を築くための初歩的な方法として、ペーシングがよく使われます。ペーシングとは、NLP(神経言語プログラミング)という心理学で、コミュニケーションの一つです。相手の声のトーン、話すスピード、感情や動作を合わせます。そうすることで、聞き手と話し手に一体感が生まれ、信頼につながっていくと言われています。例えば、小さい声でモジモジ話す後輩がいたら、大声で早口でしゃべりかけるとプレッシャーを与えてしまいますよね。相手の表現に合わせることを意識し、穏やかにゆっくりした話し方をしてみると、グッと距離が縮まるかもしれません。
2.ミラーリングで安心感を与えよう
「ミラーリング」は名前の通り、鏡のように合わせます。姿勢や身振り・手振り、うなずきなど、相手の動きに合わせることで、「自分に似ている」と感じるため、親近感や安心感を持ちやすくなると言われています。これもNLP(神経言語プログラミング)の一つですが、じつは恋愛においても効果てきめんだそうです。実際に書籍でも紹介されています。しかし強調しすぎると、違和感を覚え、バカにされていると思われてしまいます。あくまでも、会話中の自然な動きで試してみてくださいね。
3.「期待されると成長につながる」ピグマリオン効果
新人の頃、指導者や先輩に期待されて嬉しかった思い出はありませんか?アメリカの心理学者ローゼンタールが行った研究には、ピグマリオン効果というものがあります。「人は、他の人から期待された通りの成果を出す傾向がある」と言われています。誰でも期待されると、結果を出すために努力したり、認めてもらえたりしたいもの。後輩の成長を願うことで、その気持ちに応えてくれるかもしれません。ただし、過剰な期待は、人によってはプレッシャーになることがあるので、何事もほどほどがおすすめです。
4.相手を思いやる伝え方
人に伝える言葉には、私目線のアイメッセージ、相手目線のユーメッセージがあります。例えば、「あなたは何を考えているか分わからない。ちゃんと報告してよ」とストレートにぶつけてしまうと相手も攻撃的になり、お互いの関係も険悪に。しかし、ユーメッセージで伝えてみると「もう少しこまめに報告してくれると、あなたの考えが分かるから私は安心できるのよ」と、まったく印象が違います。相手が主体になると、否定や評価になってしまいます。しかし、アイメッセージを使うと、プラスの言葉選びもしやすく、相手を責めない優しい言い方になります。会話の中で「あなたはねー・・・」と言いそうになった時には、アイメッセージを思い出して言葉を変換してみましょう。きっと思いが伝わるはずです。
5.信頼を築くための王道、傾聴スキル
看護師なら何度も使っているはずの基本的テクニック「傾聴」。患者さんの言葉や思いに共感して受け止めながら聴くことで、少しずつ信頼関係が生まれてきます。もちろん患者さんだけではなく、誰に対しても使えるコミュニケーションスキルです。また、指導の場面では、間違っているところは正しく伝えなければなりません。時には厳しく叱らないといけないこともあります。それでも、基本的には傾聴と同じように否定はせずに、まずは聴く姿勢が大切です。
6.まとめ
心理学を上手く利用して後輩の成長をサポートしていきたいですね。後輩のイキイキした仕事ぶりを見たら、「頑張って教えてきてよかった!」とプリセプターとしてのやりがいにもつながるはず。その日が早く来ることを願って、コツコツと指導を続けていきましょう。
~ライタープロフィール~
【野田裕貴】
大学病院で11年勤務し、血液内科、緩和ケア、ICUを経験。新しい働き方にチャレンジするために、看護師ライターへ転身。現在はWEBサイトへの執筆、看護大学の非常勤教員、老人保健施設の夜勤を兼任するパラレルワーカー。多くの人の最期に関わってきた経験から、人生や命について情報発信するメディアを運営中。