クリティカルケア領域での家族看護は、大変!難しい!できない! と感じている看護師は多いのではないでしょうか。実際、相談依頼も多く受けます。家族との関わりを難しく感じてしまうワケとは? もし、家族が医療者に対して距離を置いたり、攻撃的な態度である時、どんな関わりをすればよいのでしょうか。今回は、関わりが難しいと感じる家族を担当した時に役立つ理論を3つ、わかりやすくご紹介します。
・クリティカルケア領域で家族看護が難しいと感じる“ワケ”
クリティカルケア領域でこんな場面に遭遇したことはないでしょうか。
患者さんの状態が重篤であるほど、本人の意思を確認することが難しく、家族からの情報に頼るしかありません。限られた時間のなかで、何がベストな選択なのか患者さん本人ではなく、他者が考えなければいけないのです。そこには、医療者・家族の価値観が反映されやすいため、問題解決のために関わっていくうちに、何が一番正しいの? と考えることが多くなります。つまり、価値観の相違から倫理的なジレンマを抱えることが家族看護を難しく考えてしまう要因に挙げられます。
患者さんの数だけ様々なケースがあるので、家族看護は正解のない問題を解いているように感じてしまいます。
そんな時に、今起こっている事象の見方・捉え方を変えるだけで、家族と関わることに抵抗を感じることが少なくなるでしょう。まず、第一歩としてオススメなのが「理論」です。看護界の先人たちは家族をどんなふうに捉える必要があると教えてくれているのでしょうか。
1.家族は“システム”として捉える(家族システム理論)
モデルケースで考えてみましょう!
患者さん(夫39歳)がくも膜下出血で緊急入院となった場合・・・
妻にかかる負担は?・・・
育児・仕事・生計・自分の時間
両親は遠方・・・ だれが意思決定する? など
このように、患者さんの病気は、妻の生活リズムを急激に変化させ、その様子をみている子供や祖父母も不安になり、恐怖を感じやすくなります。つまり、何か問題が起こると、患者本人だけでなく、必ずその周りの関係者にも影響することを理解し、家族は“1つのシステム”として捉えることが大切です。
2.家族は入院中だけやっているわけではない(家族発達理論)
いまや家族に対する価値観は多種多様になってきています。そして、家族の定義も“血縁関係”から“絆を共有するもの”へと変化してきたため、看護師が関わる家族はより複雑化しています。人は誕生してから成長し、衰退していく過程の中で、家族もそれぞれの成長発達過程の中で生活しています。そして過去→現在→未来と関係が続いていきます。そのため、看護師が病院の中だけで問題を解決しようとする関わりを持つと、解決困難に陥る引き金になります。
3.家族は自ら揺らぎを止めることができる「家族ストレス対処理論」
人は何らかの問題が発生しても元に戻ろうとする機能(ホメオスタシス)が備わっています。そして、それは家族も同じです。一時的に衝撃によるストレスは大きくなり動揺を示すことはありますが、時間の経過と共に必要な資源を得ながら、家族の力でその揺らぎを抑え、ストレスを対処しようとする力があります。
つまり、看護師がみるポイントは、家族がみせる目の前の行動を対処することよりも、家族が現状をどのように受け止め理解しているのか、どんなことを問題と感じているのか、起こった出来事に対してどのような対処をしているのかに注目して関わっていくことが重要です。まずは、慌てず、落ち着いて、家族の話に耳を傾ける時間を確保して下さい。
・家族は“問題解決思考”では解決できない
家族は、安定と変化のバランスをとりながらライフスタイルの機能を維持しています。しかし、家族にとってそのバランスが崩れてしまう出来事に遭遇すると、家族の頭の中は、現状の“理解”よりも“感情”が強くなり、それが行動(泣く、怒る、逃避するなど)に現れます。
そのため、家族の行動は、こうだからこう!!という直線的な因果関係よりも、複数の要因が入り混じって行動に現れてしまうことを理解し、今起きている家族の行動を柔軟に受け止める姿勢が大切です。
看護師が、家族に対する見方を変え、家族の全体を捉えることができれば、じつは関わりが難しい家族として「みえる」だけだったということが多いです。家族の想いを聴くことを丁寧に行い、行動の変化を観察しましょう。家族が必要としているのは、親身になって寄り添ってくれる看護師です。
まとめ
限られた時間の中で家族に必要な支援をしなければならないのがクリティカルケア領域です。突然の出来事に揺らぐ家族に対して、短時間で効果的に介入することがその領域の家族看護の強みです。難しく感じているその原因はあなたの固定概念にあるかもしれません。看護師は、何よりもまずは、どんな家族なのか、その背景には何があるのか、なぜ家族はそんな態度を取るに至ったのか、いろんな視点で事象を捉えることが大切です。
理論と事象を照らし合わせてみていくと、「家族はこうだ」とか「こうあるべき」という固定概念から一旦離れることができ、目の前の関わりが難しいと感じる家族が変わってくるでしょう。
参考文献
鈴木和子・渡辺裕子:家族看護学理論と実践,日本看護協会出版会,p46-237,2012
坂本章子,星川理恵,池添志乃,家族看護学入門,家族看護,vol.10,No01,p122-130,2012
野嶋佐由美監,中野綾美編,家族エンパワーメントをもたらす家族実践,へるす出版,p227-246,2005
MuCubbin M.A : Family stress theory ; The ABCX and double ABCX models, Systematic Assessment of Family Stress , Resources, and Coping p9, 1981.
ライタープロフィール
【木原有紀子】
看護師暦14年目
急性・重症患者看護専門看護師、助産師
大学病院救命救急センター所属後、東京女子医科大学大学院を修了。
現在は美容クリニックで社長秘書を務めながら、専門看護師の活躍の場を広げる活動やキャリアコンサルタントとしての活動を推進中。