洗浄とは?
洗浄とは、傷の表面や周辺に付着した汚れや細菌、壊死組織などを取り除くことです。傷の治癒を妨げる要因を減らすために必要なケア、かつ基本的なステップです。適切に洗浄することで感染を予防し、組織の再生を促進する重要な役割を果たします。褥瘡などの慢性創傷や難治性創傷については「ウンドハイジーン」という概念があり、石鹸による洗浄は感染や炎症の持続や壊死組織の増殖の原因となるバイオフィルムを除去するために大切な要素であるとされています。
石鹸成分が創内に残っていると創部への刺激や雑菌の餌となり、感染リスクを高める可能性があるため、洗浄後は微温湯(びおんとう)でしっかりと洗い流すことが大切です。
皮膚と汚れについて
傷を洗浄するとき、つい「傷の中」をきれいにすることに意識が向きがちではありませんか?傷の洗浄はもちろんのこと、傷とともに周囲の皮膚をきれいにすることも大切なポイントです。傷周りの皮膚には、皮脂や垢として落ちた角質に加え、テープなどの粘着剤や粘着成分に張り付いたガーゼ・衣類の繊維などが「汚れ」として付着しています。この汚れは皮脂と混じり合っているため主に油性の汚れです。また、保護材などに付いた浸出液や軟膏などの薬剤も周囲の皮膚に付着しているため、それらが残ったまま傷を覆うことは傷の汚染につながり、治癒の遅延や感染の原因となることがあります。
汚れが落ちるメカニズム
浸出液や血液、皮脂などは主に油性の汚れです。この油性の汚れをできるだけきれいにするには洗浄剤を使用することが大切です。洗浄剤の効果を発揮させるために、洗浄のメカニズムについてお話しします。
「石鹸は泡立てて使ってください」と聞いたことはありませんか?今では泡で出てくる石鹸もたくさん見かけるようになりました。

なぜ、石鹸は泡立てたほうが良いのでしょうか?それは、洗浄剤の主成分である「界面活性剤」が関係しています。界面活性剤は水になじみやすい親水基と油になじみやすい親油基でできています。この2つの成分は石鹸が泡立った状態で一番効果を発揮するため、効果的に洗浄するためには石鹸を泡立てて使うことが重要なのです。また、泡立たせた石鹸は肌にもさらになじみやすくなります。
石鹸は汚れとともに角質層にある保湿成分も一緒に落としてしまうため、疾患や年齢により脆弱な皮膚の方はドライスキンに傾きやすくなります。創周囲の健常な皮膚は摩擦刺激の少ない洗い方の工夫や保湿が必要です。
洗浄剤について
「洗浄剤」はすべてが同じではありません。それぞれの特徴を知り、目的に合ったものを選択することが必要です。ここでは洗浄剤のpHと洗浄力についてお話しします。
石鹸のJIS規格では、洗浄剤のpHは8~11となっており、弱アルカリ性のものが多い傾向です。しかし、最近は弱酸性洗浄剤が市販されているのをよく目にすることもあるでしょう。弱アルカリ性と弱酸性の洗浄剤の違いは、泡立ちと洗浄力です。
弱アルカリ性の洗浄剤はキメが細かくてへたりにくい泡を作ることができ、洗浄効果も高いとされています。人の皮膚はpH4~6.5の弱酸性です。たとえ弱アルカリ性の洗浄剤を使用しても健常な皮膚であればすぐに弱酸性に戻る性質があり、これを「緩衝作用」と呼びます。しかし、皮膚が脆弱な方は緩衝作用も低下しているため、弱アルカリ性の成分が皮膚への刺激となり、ドライスキンに傾きやすくなるのです。弱酸性の洗浄剤は泡立ちが柔らかく、へたりやすい泡であるため、アルカリ性の洗浄剤と比べて洗浄力は弱くなります。しかし、皮膚のpHに近い成分なので皮膚への刺激は少ないようです。創部の状態や年齢、疾患、皮膚状態など状況に合わせて洗浄剤を選択することが大切です。
洗浄のポイント
私が訪問看護で実践している「傷をきれいに洗うためのポイント」をご紹介します。

- ① ある程度の汚れや石鹸をなじみやすくするために、石鹸洗浄の前には38~40℃程度の微温湯で予洗いする。微温湯が沁みる場合は人の体液と同じ成分である生理食塩水を使用する。(在宅では生理食塩水を手作りすることもある。)
- ② 石鹸は泡で出てくるものを使用する。液体や固形石鹸の場合は泡立てネットやビニール袋に微温湯と空気を入れて素早く振るなどしてできるだけ硬めの泡を作る。
- ③ 石鹸で創部を愛護的に洗浄する。ぬめりがある場合はガーゼなどを指に絡めてぬめりを取るようにこすり洗いする。
- ④ 微温湯を流しながら創部を撫でるように洗浄し、創面のぬめりをできるだけ除去する。
- ⑤ 洗浄後はガーゼやキッチンペーパーなどで押さえ拭きをして洗浄液を創部に残さないようにする。
- ⑥ 石鹸洗浄は1日1回とし、失禁などで汚染した場合はできるだけ速やかに微温湯で洗い流す。

まとめ
いかがでしたか?今回は在宅ケアの悩みとして多く聞かれる「傷の洗浄」についてお伝えしました。洗浄による創部の清浄化と感染コントロールは、創傷治癒過程の促進に大切な要素であり、循環や栄養とともに欠かせないものです。また、患者さんや利用者さんにとっても創傷治癒過程が順調に進むことは疼痛や不快感が軽減され、QOLの向上につながります。この内容を日頃の創傷ケアにお役立ていただけたら幸いです。
- ・安部正敏編著 「皮膚科学 看護スキルアップシリーズ たった20項目で学べる褥瘡ケア」 2014年
学研メディカル秀潤社 - ・一般社団法人日本褥瘡学会編集 「在宅褥瘡テキストブック」 2020年
照林社 - ・花王プロフェッショナル・サービス株式会社 「Kao Hygiene Solution No.25」 2022年3月29日発行
参考文献:
ライタープロフィール
【山岸 美智子】
リフレクソロジーとフットケアサロン「あしまるナース」代表
せせらぎの森訪問看護ステーション兼務
2016年 皮膚・排泄ケア認定看護師 取得
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