厚生労働省がアドバンス・ケア・プランニングの愛称を人生会議としたのが2018年でした。それから4年が経過し、人生会議という言葉を医療提供の場面以外でも耳にすることが多くなってきたと感じます。そして厚生労働省は11月30日(いい看取り・看取られ)を「人生会議の日」とし、人生の最終段階における医療・ケアについて考える日と定めています。この記事を読んでくださる皆さんが11月30日に向けて人生会議を実践するのに役に立つ情報をお伝えしていけたらと思っています。
そもそもアドバンス・ケア・プランニングが必要な背景
団塊の世代が全て後期高齢者世代となる2025年以降に日本人の死亡数はさらに増加し、2040年頃にピークを迎えると推定されています。今後ますます医療介護が必要となり、看取りが増加する一方で、国の医療計画1)では令和7年度までに病床機能を再編し、全国の病床数は減少していきます。
医療ニーズと看取り数は増加しつつ、病床が減ることでこれまで入院治療を受けていた人が治療を受けられなくなることや看取り場所がなくなるという可能性が生じ、看取り難民問題などとも伝えられてきました。その対策として、外来機能や在宅療養の機能強化が推進されています。
また、一般市民へのアンケート調査の結果、自身が治る見込みのない病気となった時の療養場所の希望で自宅を希望した人が7割を超える結果2)となりました。そのため医療・介護ニーズ増加による看取り難民問題克服と一般市民の意向に沿う在宅医療や在宅看取りを考えることが重要であり、今後ますますアドバンス・ケア・プランニングの必要性が高まっていくと言えます。
アドバンス・ケア・プランニングの概念とその基本
<アドバンス・ケア・プランニングは決定までの過程が重要>
アドバンス・ケア・プランニングは意思決定までの過程が重要であるとされ、意思確定だけが目的ではないと言われています。そのため、事前指示書(アドバンス・ディレクティブ)やDNARオーダーを確認することとは考え方が異なります。
もちろん事前指示書やDNARオーダーを確認することが重要な意味をもつ場面も存在するため、これらを否定するものではありませんと断りを入れておきます。ただ、一度決定した意思は最期まで変わらない訳ではなく、意思は状況や場面に応じて揺れ動くため、その揺れ動きに寄り添い対応することが重要とされています。
<アドバンス・ケア・プランニングに向けた準備>
アドバンス・ケア・プランニングの実践には、その意思の揺れ動きに寄り添うために対話が必要となり、その対話に向けた信頼関係の構築が最初のステップとされています。信頼して自己開示ができる心理的安全があることで、これからの人生の重要な選択をするための対話が可能となります。
私は患者さんのことを知るためには、まず自分自身のことも知ってもらうことが大切だと思っています。知ってもらいながら「この人には、何を話しても否定をされない」という安心感を得てもらい、そこから信頼関係を構築していくことを意識しています。
そして信頼関係が構築できた次のステップとして実際に患者さんの価値観や人生観を把握していくことが必要です。なぜなら人生観や価値観を知る機会は、我々がご本人らしさを知るという意味でも重要ですが、ご本人がその価値観や人生観はなぜ形成されたのか振り返る機会にもなり、そのことが未来を思考するために大変重要なステップとなるからです。
時間が限られているからこそ、この準備を丁寧に実践することが重要になると私は思っています。
<アドバンス・ケア・プランニングを進める視点と支援>
アドバンス・ケア・プランニングで実際にこれからの人生の選択をしていくため、我々がアセスメントすることや実際の支援時に整えておくことをお伝えします。
アセスメントの視点では以下の4つの要素が特に重要だとされており、
・理解をする力
・論理的思考
・治療や意思決定を自分ごとと捉えられる認識
・自分の考えを表明する力
など3)とされています。
そしてご本人が意思決定していく力を高める支援としては、場の設定や心理的サポート、質問や熟考する時間の確保などとされています。これらの枠組みはさまざまな成書や研修プログラムで紹介されていますので、ぜひ学修されて実践で活用できる力を身につけていただけると良いと思います。
実際にアドバンス・ケア・プランニングを進めるコツ
<アドバンス・ケア・プランニングになぜ振り返りが重要なのか>
アドバンス・ケア・プランニングを進めるために、私が普段取り組んでいる具体例の一部を紹介させていただきます。
先ほどご本人が人生観や価値観を振り返る機会の重要性をお伝えさせていただきました。これは私が緩和ケア病棟や緩和ケアチーム、そして在宅療養の場でさまざまな話を聞きながら感じていたことでもあります。
アドバンス・ケア・プランニングが重要であるという思いで『これから残された人生の時間で何が大切だと思いますか?』と問いをしても、回答が得られることが決して多くありませんでした。急に人生の最期を見定めてそれまでの時間をどう過ごしたいかと尋ねられても、何が良いのか想像つかないということは当然だと思います。普段から死にゆくことをゴールと定め、残された時間で何を成したいかと考えている人は決して多くないからです。
それらの人に「これからの人生の時間で何が大切だと思うのか。」「どうしたら自分らしく最期まで生きることができるのか。」を考えてもらうためにも、人生を共に振り返ることが大変重要となるのです。
<人生の振り返り方>
私が患者さんと人生の振り返りをしていくにあたり大切していることは、ご本人にとって前向きになれる相槌です。
もちろん話題もできるだけ前向きに、これまでの人生で一番頑張ってきたことや熱中した趣味・仕事、思い出に残っている家族との旅行の話などについて尋ねて話をしていただきます。その話の中で、ご本人がなぜその出来事が一番心に残っているのか気付くこともありますし、さらに整理が必要であると感じたときには、なぜその出来事が心に残っているのかなど問いをお伝えすることで気付かれることもあります。
このように過去の体験で自分自身が得てきた人生観や価値観を振り返り、だからこそ今の時間で大切にしたいことが整理され、これからの時間で大切にしたいという未来に向けた意思決定ができるのだと思います。
まとめ
今回、紹介したことはアドバンス・ケア・プランニングのほんの一部です。
また「アドバンス・ケア・プランニング」「人生会議」「意思決定支援」などさまざまな表現をされます。しかし重要なことは、その人自身が人生の選択ができるように、真摯に向き合い、揺れ動く心に寄り添いながら、死に向かうではなく人生をその人らしく最期まで生きるための支援をしたいという心だと思います。
アドバンス・ケア・プランニングを通して、最期まで生きる支援をできることが看護師としての誇りとなり、皆さんが看護を提供する地域が、より魅力的な人生を送ることができる場となったら素晴らしいなと思います。
引用参考文献
1) 地域医療構想、医療計画について 令和3年度 第2回医療政策研修会及び地域医療構想アドバイザー会議 令和4年1月21日資料
2) 日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団 2018年
『余命が限られた場合、どのような医療を受け、どのような最期を過ごしたいか』
3) 人生の最終段階における医療体制整備事業 本人の意向を尊重した意思決定のための研修会 研修会資料
ライタープロフィール
【吉村元輝】
緩和ケア認定看護師として大学病院で緩和ケア経験を経て、訪問看護で在宅看取り支援に携わる。在宅看取り率向上への取り組みを継続しながら学修も続け、名古屋大学大学院を修了。看護協会委員や講師活動も担う。
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