・死の恐怖を感じる呼吸困難。その前で私たち看護師に何ができるのか。
〈薬剤による症状緩和〉
呼吸困難は呼吸不全と異なり、血中酸素飽和度の低下を伴わない息苦しいという患者さんの自覚症状です。呼吸困難を緩和する薬剤として医療用麻薬であるモルヒネやベンゾジアゼピン系薬(モルヒネ等と併用1))があります。末期の肺がん患者さんなどには、予め薬剤投与指示を医師から得ておくことが重要です。
〈環境整備による症状緩和〉
薬剤使用以外には環境整備も重要です。水分やナースコールなど手の届く範囲に必要な物を準備することや、適度な気流のために換気なども大切です。空気の流れを作ることや少し気温を低めに保つことなど、がん診療に携わる医師の緩和ケア研修会(PEACE)でも紹介されており、環境を整える看護師の専門性の発揮どころといえます。
顔への心地よい送風が呼吸困難を改善することも明らかとなっており2)、うちわや小型の扇風機を設置するなども看護師が提案できる支援です。私が緩和ケア病棟にいたときは、置き型の首振り可能な扇風機を使用していました。最近はクリップ式の小型扇風機もあるため、それらを介護ベッドの足元ボードなどに設置することも良い方法です。
〈精神的ケア〉
また呼吸困難によって死の恐怖を感じ、さらに呼吸困難を強くする患者さんもいます。私たち看護師は薬を使用しながら、いまの症状は必ず楽になることを保証し、そっと患者さんに触れ孤独でないと伝えながら、不安を共にすることが心の支えとなることもあります。呼吸困難は環境整備を含めて予防的に対応しながら、心身両面へのケアがとても重要となります。
・実は多くの患者さんが悩んでいる口渇とそのケア
〈口渇の原因〉
もう一つ、がん患者さんが悩まされる症状として口渇があります。化学療法や頭頸部の放射線療法を受けた患者さんに頻度が多く、がん治療期から悩みを抱えていることも多いです。しかし、患者さんは痛みや呼吸困難と違い、口渇を医師や看護師に相談する認識がないことも多いです。そのため悩みながらも我慢していることもあります。ある患者さんは口渇に伴う口臭により、お孫さんとの会話が減り、明らかに表情が暗くなっていました。口渇は命に関わる症状ではないかもしれませんがQOLを大きく損なう可能性があり、対応する必要が極めて高い症状です。
〈口渇のケア介入〉
結論として口渇は輸液による水分補充で改善は得られません3)。口渇には口腔ケアなど対症療法が一番のケアとなります。氷片やレモン水による含嗽なども患者さんによっては好まれます。経験的には、スポンジブラシなど舌も磨くことが可能な方法でこまめにブラッシングをすることや、覚醒時間帯には2-3時間おきに含嗽を促すことも症状緩和につながります。
〈チーム介入の重要性〉
舌苔付着が非常に強い場合は口腔カンジダ症の場合もあります。味覚障害や舌のピリピリした痛みから経口摂取不良の原因となり、さらに口渇悪化につながることもあります。その場合は歯科医師や歯科衛生士の治療介入が有効です。歯科専門家と協力し、日常ケアは看護師で実施していくなど役割分担をしながらチームで介入することが終末期には大切です。まずはがん患者さんには高頻度で口渇があるという認識を私たち看護師が持つことが重要です。
まとめ
がん患者さんの症状緩和は多職種で関わり、チームでケアすることが重要です。その中でも看護師は最初に患者さんの声を聴く窓口であり、患者さんにケアを届ける最後の砦であると思います。患者さんが楽しみを楽しめるように、悲しみを悲しめるようにさまざまな身体的苦痛症状を緩和することはとても大切だと思います。患者さんの一日のはじまりが笑顔であり、一日を感謝と共におえられるために、看護を届けていきたいですね。
引用参考文献
- 1. 日本緩和医療学会 がん患者の呼吸器症状の緩和に関するガイドライン2016年版 金原出版株式会社
- 2. Palliative Care Research vol.10, no.1, pp.147-152, 2015
- 3. 日本緩和医療学会 終末期がん患者の輸液療法に関するガイドライン2013年版 金原出版株式会社
ライタープロフィール
【吉村元輝】
緩和ケア認定看護師として大学病院で緩和ケア経験を経て、訪問看護で在宅看取り支援に携わる。在宅看取り率向上への取り組みを継続しながら学修も続け、名古屋大学大学院を修了。看護協会委員や講師活動も担う。
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