1. 消毒・除菌・殺菌・抗菌・静菌・制菌の違い

これらの用語は、微生物の制御に関するものですが、それぞれ意味合いが異なります。
- ・消毒: 病原性のある微生物を、感染力を失わせる程度まで減少させること。対象は限定的で、必ずしもすべての微生物を死滅させるわけではありません。
- ・除菌: 対象物から微生物の数を減らすこと。具体的な減少レベルは示されていません。
- ・殺菌: 微生物を死滅させること。対象や程度は問わず、一部の菌を殺すだけでも「殺菌」と表現できます。医薬品や医薬部外品にのみ使用が認められています。
- ・抗菌: 微生物の増殖を抑制すること。菌を殺すのではなく、増殖を抑えることで数を増やさないようにします。
- ・静菌: 微生物の増殖を一時的に停止させること。微生物を殺すわけではなく、環境が変われば再び増殖する可能性があります。
- ・制菌: 特定の菌に対して、増殖を抑制すること。抗菌よりも対象が絞られています。
2.イオンコーティングと光触媒の効果機序
感染対策として活用されているコーティング技術には、イオンコーティングと光触媒があります。
- ・イオンコーティング: 金属イオン(銀、銅など)を対象物に付着させる技術。金属イオンが持つ抗菌作用を利用し、微生物の増殖を抑制します。特に銀イオンは、広範囲の微生物に対して効果を発揮し、人体への安全性も高いことから、医療分野や生活用品に広く利用されています。
- ・光触媒: 酸化チタンなどの物質に光が当たることで、強力な酸化力を持つ活性酸素が発生する現象を利用した技術。この活性酸素が、微生物や有機物を分解し、抗菌・防汚・消臭効果を発揮します。
3.日常生活での活用例
これらの技術は、私たちの身の回りにあるさまざまな製品に活用されています。
- ・抗菌加工製品: スマートフォンケース、マスク、衣類、台所用品などに抗菌加工が施され、菌の増殖を抑えることで衛生的な状態を保ちます。
- ・光触媒コーティング: 壁、窓ガラス、空気清浄機などに光触媒コーティングが施され、抗菌・防汚・消臭効果を発揮します。

4.医療現場での活用例とシルバーコーティングの利点
医療現場では、感染対策は非常に重要です。イオンコーティングや光触媒は、医療機器や環境表面の抗菌に役立っています。
- ・尿道留置カテーテルへのシルバーコーティング: 尿路感染は、留置カテーテルの使用に伴う最も一般的な合併症です。カテーテルの表面に銀をコーティングすることで、カテーテルの表面における細菌の付着と増殖を抑制し、感染のリスクを低減することができます。
5.なぜ銅ではなく銀を使うのか?

銅も抗菌作用を持つ金属ですが、銀に比べて人体への毒性が高く、アレルギー反応を起こしやすいのがデメリットです。また、銀は広範囲の微生物に対して効果を発揮し、抗菌効果の持続性も高いという利点があります。そのため、医療現場では、安全性と有効性のバランスから、銀が選択されることが多いのです。
まとめ
消毒・抗菌技術は、医療現場だけでなく、私たちの日常生活においても重要な役割を果たしています。これらの技術を正しく理解し、適切に活用することで、より安全で快適な生活を送ることができるでしょう。
参考文献(ガイドライン)
- 1.CDC Guideline for Disinfection and Sterilization in Healthcare Facilities,2008
- 2.Guideline for Prevention of Catheter-associated Urinary Tract Infections, 2009
- 3.WHO Guidelines on Hand Hygiene in Health Care
補足: 上記の情報は一般的なものであり、製品や状況によって効果や適用が異なる場合があります。具体的な製品の使用方法や医療現場での対応については、それぞれの指示に従ってください。
ライタープロフィール
【工藤智史(くどうさとし)】武蔵野徳洲会病院 感染管理室 感染管理認定看護師
介護福祉士取得後に看護師へ。手術室、外科、循環器内科を経験。主任として働く傍ら、教養学部学士を取得。2014年に感染管理認定看護師の資格を取得した。2018年8月より、現任の武蔵野徳洲会病院 感染管理室へ配属となり、感染管理者として勤務している。
趣味は自転車、散歩・食べ歩き、温泉めぐり、ディズニー、詰め放題、御朱印集め