腹膜透析について知ってはいるけれど、実際どのように自宅で治療したり生活したりしているのだろうと思ったことはありませんか。
腹膜透析は、腎機能が低下した方が自宅で実施できる透析療法の一つです。血液透析と異なり、病院に通わず、自宅で日常生活を送りながら治療できることが大きな特徴です。ただし、日常的に自己管理する必要があるため、工夫やサポートが重要です。
今回は、腹膜透析を実施しながらどのように自宅で生活を送っているか、現役の訪問看護師がお伝えします。
腹膜透析とは
腹膜透析とは、透析液をお腹に溜めたうえで腹膜を利用し血液中の尿毒素や余分な水分を取り除く治療法です。
腹膜透析には、日中に自分で透析液を交換する「CAPD(連続携行式腹膜透析)」と、夜間に機械が自動的に透析する「APD(自動腹膜透析)」があります。
CAPD(連続携行式腹膜透析)とは
CAPDとは、自分の腹膜を使って老廃物や水分を除去する方法です。
CAPDでは、腹膜の機能や状態に合わせて医師から透析液が処方されます。1日に1~2Lの透析液を3~5回腹膜を通して出し入れするのです。家事や仕事のスケジュールに合わせて透析の時間を調整できるため、透析以外は普段通りの生活を送れます。
CAPDの具体的な流れ
1. 接続操作:透析液を注液したり排液したりするために、お腹に留置されているカテーテルを排液バッグと透析液が一つとなっているツインバッグに接続します。手動で接続する場合もありますが、専用の器械を使用するのが多い傾向です。専用の器械を操作するために必要な説明書もあるため、手技に不安がある方でも安心して実施できます。
2. 排液:お腹に溜まっている透析液を排液バッグに出します。排液に要する時間は15~20分程度です。
3. 注液:古い透析液を排出し、新しい透析液をお腹に入れます。注液に要する時間は5~10分ほどです。
4. 終了:全体の作業時間は30~40分程度です。
APD(自動腹膜透析)とは
APDとは、機械に接続することで寝ている間に透析が実施されることです。そのため日中は、透析の必要がなく自由に過ごせます。
APDの具体的な流れ
1. 準備:就寝前に透析液と排液タンクを機械にセッティングしておきます。
2. 自動透析:お腹のカテーテルと専用バッグを接続すると腹膜透析が始まり、自動的に透析液が交換されます。治療時間は8時間ほどです。
3. 終了:朝起きたら、治療が終了しています。排液タンク内の液を破棄し、空の透析液バッグを片付けましょう。接続を外して治療は終了です。
腹膜透析のお部屋環境
腹膜透析(PD)の治療では、感染を引き起こさないために、清潔で整った環境が必要です。リビングや自分の部屋で透析液を交換している方が多いからです。必ずしも専用の部屋でなくても治療できます。大切なことは掃除が行き届いているか否かです。透析を始める前には窓やドアを閉め外気からの汚染を防ぎましょう。エアコンの風が直接当たる場所も避け、透析中は一時的にエアコンを止めることで埃の舞い込みを防ぐことができます。ある程度の高低差をつけることで、透析液はスムーズに排液できるため、椅子やベッドなどに座るのが望ましいでしょう。また、月に一回透析液や透析キットが届きます。透析液は日の当たらない室内に保管し、埃などがたまらないよう定期的な掃除が大切です。
在宅での治療が長期にわたるため、リラックスして治療できる空間を整えましょう。
治療を支える透析ノート
腹膜透析中の方が毎日記録している透析ノートは、治療を助けるための大切なツールです。記載する内容は、透析液の量、治療にかかった時間、排液の状態、尿の量、血圧、体重、飲水量、カテーテル周りの様子、体調の変化などです。透析ノートは透析内容が適切か、異常はないかなどひと目でわかるため、体調の変化を把握しやすくなります。毎日記録する習慣を身につけることは、自己管理意識を高めるためにも役立つはずです。診察時には透析ノートを持参し、医師と一緒に透析状況を確認しましょう。
感染予防のため毎日のケア
腹膜透析を続けるためには、お腹から出ているカテーテルの「出口部」とカテーテルそのものの管理が重要です。出口部のケアを怠ると、出口部・皮下トンネル感染や腹膜炎のリスクが高まります。そのため毎日、出口部の観察と消毒が欠かせません。出口部の観察ポイントとしては、赤みや腫れ、痛みの有無、膿や滲出液が出ていないか、かさぶた形成がみられないかなどが挙げられます。
異常が見られた場合は、すぐに病院へ連絡し対応を確認しましょう。医師の指示があれば、処方された軟膏を使用することが可能です。菌が入らないように、出口部はクロルヘキシジンなどで内側から外側へ向かって「の」の字を描き、消毒します。摩擦を避けるために出口部はガーゼなどで保護し、カテーテルをテープで固定しましょう。日常の動作でカテーテルが引っかからないよう、カテーテルを腹帯に収めるなど工夫している方もいます。毎日の丁寧なケアが、トラブルの予防と快適な透析生活を支える鍵となるわけです。
腹膜透析とともに日々の暮らしを楽しむために
腹膜透析を実施している方は、生活の中での注意点を守ることで、趣味や仕事、友人との時間、外出や旅行を楽しむことができます。透析のスケジュールをうまく調整しながら自分のペースで生活することは、心と体の健康と生きがいを持って暮らすことにつながるのです。
この章では、入浴時の注意点と食事のポイントについて解説します。
入浴時の注意
入浴時の注意点は、お腹に留置しているカテーテルからの細菌感染を防ぐことです。感染が心配な方は、カテーテルの出口部を濡らさないように、専用のパウチで保護して入浴されています。この方法は、出口部が直接お湯に触れないため感染予防に効果的です。造設後、出口部が安定していれば、パウチを使わずにシャワーや入浴が可能です。出口部は最後に洗いましょう。泡立てた石鹸で優しく出口部と周囲を洗ったあとは、石鹸が残らないようシャワーで洗い流し、清潔なタオルで拭きます。きれいに掃除された浴槽で入浴し、できるだけ1番風呂を使うように指導しています。同じタオルを使い続けて腹膜炎を発症した事例があります。そのため、入浴ごとに清潔なタオルを使うことが大切です。これらの注意点を守れば、安心して入浴したりシャワーしたりすることもできます。
食事のポイント
食事のポイントは、適切なエネルギー量を維持し、糖質やタンパク質、脂質をバランスよく摂取することが大切です。とくに塩分と水分の摂取量が増えないよう注意しなければいけません。塩分を控えるのは難しい場合もありますが、減塩しょうゆを使ったり、料理を小皿に取って少量のソースで味付けしたりするなど工夫されています。また、レモンやお酢などの酸味や香辛料をうまく使うことで、減塩を無理なく続けられるでしょう。汁物を控えることも塩分摂取を減らすための良い方法です。独居で自炊が大変な場合、減塩の宅配弁当を上手に取り入れている方も。また、病院受診時に栄養士と相談しながらバランスの取れた食生活を心がけている方もいます。
地域の精神的サポートを受けて
腹膜透析は、自宅での自己管理が基本であるため、正しい方法で継続して自己管理するためには、地域の支援体制が重要です。月に一回ほど定期的に病院で診察を受けることに加え、継続的な観察や手技が不安な方のサポートなど、病院からの依頼で訪問看護師が介入することがあります。訪問看護師は腹膜透析の治療状況を確認したり健康管理をサポートしたりするわけです。仮に問題が発生したとしても、訪問看護師が医療機関と連携し迅速に対応できます。
通院が困難となる場合には、訪問診療の選択肢もあるため、自宅で医師の診察を受けている方もいます。また、加齢に伴い認知力や視力の低下などから自己管理が難しくなるケースも。同居する家族や訪問看護師の支援を受けながら、腹膜透析の準備や片付け、手技の支援を受け治療を継続できます。APDによる治療では遠隔モニタリングが可能です。治療データが医療機関と共有されるため、異常があれば病院から確認が入るなど、万全のフォロー体制が整っています。機器に不具合があった際も透析機器メーカーのサポートがあるため、トラブル時も安心です。
このように地域の医療機関や訪問看護をはじめとした支援を受けながら、自宅で安心して治療できます。
まとめ
腹膜透析中の暮らしは、治療と日常生活が密接に結びついています。適切な支援や工夫を通じて、充実した生活を送ることが可能です。腹膜透析は、治療法の一つではありますが、自分の生活を大切にしながら、健康を維持するための手段でもあるのです。一人ひとりの努力と地域の支援が結びつくことで、より良い暮らしとなるよう腹膜透析に取り組まれています。
~ライタープロフィール~
【三橋啓子】ナースLab認定ライター
1985年生まれ。北海道出身。ナース14年目。京都の総合病院の外科で主に癌患者と深く関わる。一般病棟での緩和ケアを経験。その後ホスピス病棟で働き、看取る側として人間性を高めたいと思い2014年から1年間フィンランドでボランティアへ参加。アントロポゾフィー看護と出会い感銘を受ける。帰国後、リハビリ特化型ディサービスで所長として立ち上げに参加。地域連携の魅力を感じ、2019年に訪問看護の道へ。
ブログ「原付バイクで街駆け巡りナース」で訪問看護奮闘の日々をリアルに発信中。
ブログ:https://keikokahvia.hatenablog.com/