高齢者糖尿病診療ガイドラインを看護に活用

急性・重症患者看護専門看護師 加瀬美郷
急性・重症患者看護専門看護師 加瀬美郷
高齢者糖尿病診療ガイドラインを看護に活用

診療ガイドラインを普段皆さんは見ることはありますか?診療というと、医師が知っていなきゃいけないもの、と思いがちですが、実は看護に活かせるポイントも盛りだくさん記載されています。今回は、そんな診療ガイドラインの中でも、2023年に改定された高齢者糖尿病診療ガイドラインを読み解き、看護に活かしていきましょう。



高齢者糖尿病診療ガイドラインとは?

高齢者の糖尿病患者は非典型的な症状を示し、血糖コントロールが不良となることで、認知機能障害や心臓病のリスクを高めるため、日本糖尿病学会と日本老年医学会は2017年に高齢者糖尿病診療ガイドラインを共同で策定しました。



高齢者糖尿病看護のポイント

高齢者糖尿病の定義

高齢者糖尿病は、65歳以上の人に見られる糖尿病のことです。


高齢者糖尿病の特徴

個人差は大きいものの、口渇や多飲、多尿などの高血糖症状が出現しにくい上、以下のような特徴を示します。


1.空腹時よりも、食後に高血糖が起こりやすい。


2.低血糖をきたしやすく、無自覚低血糖や、非典型的症状を呈することが少なくない。


3.薬の副作用が現れやすい。


4.動脈硬化などの合併症が多く、無症候性の場合もある。


5.認知障害、うつ、日常生活活動(ADL)の低下、筋肉減少(サルコペニア)、虚弱(フレイル)、転倒・骨折、低栄養、排尿障害など、老年症候群を引き起こしやすい。



高齢者糖尿病の特徴を押さえた看護介入

実際にどのように活かしたらいいか簡単にまとめてみました。ぜひ参考にしてみてください。


1)高齢者総合機能評価(CGA)を実施する

高齢者の特徴を考慮し、認知機能、身体機能、心理状態、栄養、薬剤、社会経済的状況を評価しましょう。
その際は多職種と連携しながら支援方法を検討するのが良いとされています。



2)食後の高血糖への対応

小さな量を何回かに分けて食べることで、食後の血糖の急激な上昇を防ぎます。食事摂取量にムラがないかも観察しましょう。


食後の血糖値を特に注意深くチェックし、特に以下の点も考慮しましょう。
内服薬やインスリンの種類や量を間違えていないか、医師の指示通りにインスリン治療ができているか(治療への積極的参加:アドヒアランス)などを確認し、必要に応じて指導とサポートを行います。
高血糖やケトアシドーシスの症状があれば迅速に対応しましょう。
特に暑い季節や発熱時には、脱水を避けるための十分な水分補給を促し、高浸透圧高血糖状態(HHS)の兆候に注意します。認知症、うつ病、BMIの低下がある場合はHHSを引き起こす要因となるため、より注意が必要です。



3)低血糖の予防と対応

高齢者では典型的な低血糖症状が出にくい特徴があり、「何となくいつもと違う行動をする」「ふらふらして動作がぎこちない」、「めまいや脱力感」「めがかすむ」など、非特異的な症状(無自覚性低血糖)がないかも観察しましょう。

低血糖時の対応方法について、事前に医師に確認を取りましょう。また、患者自身や家族に、低血糖の兆候と対処法の教育を実施しましょう。



4)薬物療法の管理

高齢者は薬の副作用に敏感です。重症低血糖などの有害作用のリスク 、腎機能、ポリファーマシー(多剤服用による有害事象)、薬物相互作用 、アドヒアランスなどを確認しましょう。



5)合併症のスクリーニング

心臓病や腎障害などの合併症に対して定期的な検査が実施されているか確認します。症状がなくても潜在的なリスクに注意し、予防策を講じます。
また、糖尿病性の網膜症、腎症、神経障害をモニタリングする際には、高齢者の特徴を加味して、複合的に評価を行いましょう。



6)老年症候群へのアプローチ

認知機能の定期的評価と必要に応じた心理支援は、セルフケアの遵守を促し、血糖異常リスクを減少させます。
適度な運動や栄養管理を通じて、サルコペニアやフレイルの予防に努めます。

転倒予防にも気を配りましょう。神経障害によるバランス障害や筋力低下、高血糖、低血糖、脳卒中、視力障害などにより、施設入所中の患者では、転倒リスクが4倍に増加するといわれています。



7)家族との連携

糖尿病管理の重要性と具体的な方法を家族に教え、協力を促します。
介護保険制度などを利用したデイケア(日中に利用できるケア施設)、通所サービス(定期的に集まって活動する場所)、訪問看護(自宅に看護師が訪れるサービス)、訪問栄養指導(栄養士が自宅を訪れて食事のアドバイスをする)、訪問薬剤指導(薬剤師が自宅を訪れて薬の管理やアドバイスをする)などがあります。地域のサポートを活用して、患者と家族の負担を軽減することも重要です。

家族との連携

まとめ

高齢者糖尿病の特徴を押さえた、血糖管理、低血糖への対応、薬物療法のあり方、合併症の観察、老年症候群へのアプローチ、家族や地域との連携、いかがだったでしょうか。これらの視点を活かして高齢者糖尿病患者への質の高いケアを提供していきましょう。



参考文献

一般社団法人日本老年医学会、一般社団法人日本糖尿病学会:高齢者糖尿病診療ガイドライン2023

一般社団法人日本老年医学科会HP


~ライタープロフィール~

【加瀬美郷】
急性・重症患者看護専門看護師で、急性期医療のフィールドと大学院での非常勤講師を経験。2022年には、予防医療推進事業の㈱メディカルヘルスオンラインを設立し、代表取締役に就任。オンライン看護を軸に、労働者の健康増進や、女性・障害者の雇用促進、企業向け講師など、多岐に渡り活動。地元、九十九里ホーム病院での臨床現場にも時折携わっている。

㈱メディカルヘルスオンライン


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