看護職は忙しさや人間関係などストレスを強く感じやすく、職場におけるメンタルヘルスへの対策の重要性が言われています。厚生労働省は、病院や施設などの事業主に健康を保てる職場環境づくりを求めると同時に、労働者自身でストレスチェックをし、セルフケアに努めることを呼びかけています。
では、ご自身が1ヶ月にどれだけ夜勤をしているか、時間外労働をしているかご存じでしょうか? 看護職のストレスやメンタルヘルス不調の原因には「夜勤(宿直勤務含む)の負担の大きさ」や「時間外労働の長さ」などが挙げられます。これらの情報を確認できるものが、給与明細です。また、給与から毎月引かれているお金の中には、休職や退職などもしもの時に活用できる社会保険もあります。この機会に給与明細について理解を深め、ご自身の働き方やメンタルヘルスのセルフケアの方法を一緒に考えてみましょう。
1.給与明細とメンタルヘルス
1)給与明細の内容
給与明細には勤怠、支給、控除の3つの項目があります。
【給与明細の例】「勤怠」には、勤務日数や勤務時間、残業時間などが細かく記載されています。給与明細の中でも、メンタルヘルスに大きく関わる項目が勤怠です。
【勤怠の記載内容例】
「支給」には、基本給や職能給、各種手当などの具体的な支給額と欠勤や遅刻などによって差し引かれる金額が記載されています。
「控除」とは引かれるお金のことで、労働者を守るために必要な社会保険や税金などが引かれています。最終的に総支給額から控除をした後の金額が「差引支給額」と書いてあり、これがいわゆる「手取り」と呼ばれている給与です。
給与は就業規則や労使協定書などに記載されていますので、確認してみてください。また、給与明細の内容に不明な項目がある場合は、勤務先の担当部署に確認してみましょう。
2) 勤怠項目から働き方を知ろう
勤怠の項目を見ると、労働時間、休日日数などご自身の働き方に対する具体的な数字が見られます。労働時間は、労働基準法により1日8時間以内、1週間40時間以内と定められています。この労働時間内に残業した分を法定内残業、超えた分を法定外残業といい、後者は割増賃金の対象です。
時間外や休日労働時間が1ヶ月で45時間を超えると死亡や病気などにつながりやすく、長くなれば長くなるほど影響は大きくなります。そのため、厚生労働省は、長時間労働の削減や働き方の見直しなどの必要性を呼びかけています
看護職の場合、時間外労働は業務終了後だけではなく、情報収集や準備など業務前に行っている職場もあります。その中には慣習化され、報酬の支払われないサービス残業となっているところもあるかもしれません。1ヶ月のご自身の働き方を振り返り、給与明細の内容が実際の労働時間と相違がないか、合わせて確認してみてください。また、年休に関しては、労働基準法が改正され、2019年(平成31年)の4月から、法定の年休付与日数が10日以上の全ての労働者に対し、「年5日の年休の確実な取得」が義務付けられました。年休の取得数も確認してみましょう。
2.活用していますか? 福利厚生
労働者は社会保険料などを支払うことにより、さまざまな保障を受けることができます。福利厚生は労働者の働く意欲を維持するほか、現在はメンタルヘルス対策として、活用できるものも多いです。
1) 法的に義務付けられている福利厚生
社会保険や労働保険は労働者やその家族の生活の安定のため法律で義務付けられた福利厚生です。その中でも社会保険とは、病気やケガ、出産、失業などで収入が得られなくなった場合に生活の安定のため、一定の給付を受けられる強制加入の保険制度です。高齢になった時や配偶者が死亡した時などにも給付があります。労働者は健康保険と介護保険、厚生年金からなる社会保険と、雇用保険と労働者災害補償保険(労災保険)からなる労働保険で守られています。
健康保険は医療費の負担軽減以外にも、病気やケガ、出産などで仕事を休んだ場合、手当金を受給できるケースがあります。長引く体調不良などで働くことが難しい場合、思い切って休むという選択も可能です。
労災保険では、業務上や通勤による病気やケガに対して、さまざまな給付を受けることができます。近年では、時間外労働の多さによるメンタルヘルス障害や過労死なども認められるケースが増えてきました。このように健康保険と労災保険は自分自身を守るという意味では重要な保険ですので覚えておくとよいでしょう。
2) 会社独自の福利厚生
法定外福利厚生の内容は勤務先によって異なります。種類はさまざまですが、健康診断、人間ドックの補助や運動やフィットネスクラブの利用を補助するものなどがあります。旅行や観劇、遊園地などの娯楽の補助や心の専門家への相談などメンタルヘルスに役立つものも多いです。
福利厚生の多くは労働者が自分でサービスを選択し、申請して利用します。社会保険料は労使折半で給与の約15%が天引きされており、会社独自の福利厚生サービスを導入していればさらに負担感は増していくでしょう。そのため、労働者自身が福利厚生について理解し、賢く活用していくことで、メンタルヘルス対策にもつながります。勤務先の福利厚生を知りたい方は、就業規則や、関係部署などに確認してみましょう。入職時に説明をしているところも多いため、その時の書類を確認してみるのもオススメです。
3.メンタルヘルスのセルフケア方法
給与明細を確認することはセルフケア方法の1つですが、ここではそれ以外の方法を簡単に説明します。
1) 誰かに相談する
ストレスやメンタルヘルスの不調に気づいた場合、1人で解決するには限界があります。誰かに話すことで、気持ちが落ち着いたり、整理されたりします。また、意外な解決方法が見つかるかもしれません。相談相手としては、職場の同僚や上司のほかに、50人以上の労働者がいる職場では産業医や保健師など専門家もいます。しかし、病院の場合、専門家を同じ病院の医師や保健師などが兼任している場合も多いため、同じ職場の人に相談をしたくない、難しいという場合には外部の相談場所を活用してみましょう。公的なもの以外にも、民間の相談場所もえていますので、ご自身が相談しやすい場所を探しておくといいかもしれません。
2) 自分なりの気分転換の方法を探す
背伸びや肩をまわしたり、深呼吸をしたりする方法はオススメです。体がゆるむと心もゆるみ、気分が楽になることがあります。また、無理に笑うことはありませんが、笑うと体の力を抜くことができます。自分なりの気分転換の方法や気持ちを落ち着く方法を探してみましょう。
4.看護職のメンタルヘルス対策まとめ
給与明細の理解を深めることは、メンタルヘルス対策で大事とされている、セルフケアへつながります。給与明細に書かれている言葉は難しいものが多く、理解できないと思うかもしれません。しかし、自分の心や体を守り、健康的に長く働くために、理解を深めておくと役立つことが多いです。また、内容を確認しながら、労働に見合った報酬なのか、望んだ働き方ができているのかなどを考えてみると、働き方を見直すきっかけにもつながります。給与明細の理解を深め、心も体も元気に働く看護師が1人でも増えると嬉しいです。
ライタープロフィール
【しゃお】ナースLab認定ライター
看護師歴13年。急性期病院にてICUや循環器、外科病棟などを経験。現在は息子をおうち保育しながら、星読みセッションや記事作成など「おうちで働く看護師」として活動中!SNSやブログでは星読みや働き方を考える時に大切なお金の仕組みなどを中心に発信中です。
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