患者さんが食べてくれないと感じたときの看護ケア

ナースライター 西依見子
ナースライター 西依見子
患者さんが食べてくれないと感じたときの看護ケア

「患者さんが、すぐ食べるのをやめてしまって食べてくれない」と感じたとき、どのようなケアが看護師としてできるでしょうか。この回では、食べてもらえない原因や要因についてのヒントをご説明し、食事の際に看護師が簡単にできる、姿勢や環境調整等について説明します。


食べるのをやめてしまう理由

患者さんが食べるのをやめてしまうのには、さまざまな理由があります。


・疾患や薬剤の影響
・摂取エネルギー量の問題
・疼痛
・ストレス
・便秘やその他の消化器症状などによる食欲不振
・嚥下機能に適さないものが提供されているとき
・疲労感が強く食べることができないとき
・食事に集中できないとき

……など理由は一人ひとり異なります。

その中でも、今回は見落とされがちな「疲労感が強い場合」と「集中力が低下している場合」について考えてみましょう。

一言で疲労感といってもさまざまな状態があります。
低栄養状態、筋力低下などの背景があり、食事姿勢を保つ耐久性がない場合や、
呼吸状態や全身状態が悪く、食事行動に対する身体的な負担が大きい場合などがその例です。

また、集中力が低下しているときには、脳血管疾患、神経難病、認知症などが背景にあることもあり、どのような背景や環境で集中力が低下するのかを見極めて対応することが大切です。


疲労感、集中力の低下で食べられない患者さんへのケア

疲労感、集中力の低下で食べられない患者さんに、姿勢や環境に問題があったとしても、患者さん自ら何が問題かを説明してくれることはあまりありません。
そのため、看護師が食事時の姿勢、環境などを含めた食べることに関するアセスメントを行い、ケアにつなげる必要があります。


・姿勢調整について

食事時の姿勢はどのように観察すればよいでしょうか。

例えば、円背のある患者さんはベットアップをした際に、上半身のバランスを取るために頭部が前方へ突出する姿勢になることが多いです。
そして、腹部は圧迫され腹圧がかかり、座位姿勢をとることに苦痛を覚えやすくなります。
さらに、腹圧がかかると食思が低下し、食事を中断したくなる方もおられます。

そのため、頸部が前方突出していたり、後屈していたりしていないか、腹部は圧迫されていないか、また、体幹が左右に傾いていないかなどの観察が大切になります。

このような場合の対応の一つが、ベットアップを90度近くまであげずに、頸部が前方にならない60度程度のリクライニング位にすることです。このような姿勢をとることで、上肢が安定し、不要な腹圧がかからなくなり、食思を保ちやすくなります。

姿勢調整について

もう一つの例は、呼吸状態が悪い患者さんや、筋力低下がある患者さんの場合です。このような方は、腕を上げる、箸を使うなどの食事動作自体が上肢挙動動作になり息切れを増強させやすくなります。

この場合の対応の一つが、テーブルと患者さんの距離や、テーブルの高さ、肘の位置調整です。テーブルと患者さんの距離はこぶし1個くらいに近づけ、テーブルの高さは、患者さんの肘を90度程度に曲げた高さにし、手すり付きの椅子に肘をついているような形になるように、患者さんの肘下にクッションなどを入れるとよいでしょう。このように調整することで、患者さんは肘下を動かすだけで、安楽に食べることができるようになり、患者さんの食事動作による負担が軽減しやすくなります。

配膳をした際に、テーブルの位置調整がなされていない場面をよくみかけますので、気を付けましょう。

その他、普通の車椅子の背もたれでは体幹が支えられなくなり、前に突っ伏してしまうことで、食べられなくなる患者さんがいます。このような場合では、肩甲骨や後頭部が支えられるようにリクライニング車いすへ変更するだけで、体幹が安定し、食べられるようになる方もいます。

患者さんの状況により、腹部が圧迫されていないか、食事時の上肢挙上動作で負担がないか、座位姿勢が保持できる体幹の力があるかなどを評価して、姿勢調整していくことが大切です。


・環境調整について

環境調整は特に集中力が低下してしまう患者さんに有効なことがあります。

環境調整は、食事への集中力を保ちやすくために、周りからの刺激を減らした方がいい方と、周りが食べているという刺激を加えることにより食べることができる場合があります。

何か物音がしただけで、気になってしまい、そちらのほうばかり向いてしまうときは、周りからの刺激が少ない環境をつくります。例えば、食事中はテレビを消す、必要な場所にカーテンをして食べるなどの工夫です。


環境調整について

例えば、脳血管疾患後遺症で左空間無視がある方の場合では、右からの刺激がより強く入ってしまうことがあります。そのため、右側を壁にする、右側だけカーテンをするなど、右からの刺激が入らない環境調整を行うと、患者さんは食べることに集中しやすくなり、食事がすすむことがあります。

一方、認知症などの場合で、食具を使用して食べることが難しくなっておられる方には、食事を自然な形で食べることができる環境が必要になります。他の食べている人が見えるように食事環境を調整すると、自然と食事がすすむことがあるからです。

集中力が低下している要因をアセスメントし、環境調整を行っていきましょう。


まとめ

「患者さんが食べてくれない」と感じたときには、患者さんにはさまざまな理由があるので、その要因を適切に評価していきましょう。
特に、疲労感や、集中力の低下がある場合は、姿勢や食事環境の問題が見落とされていることがあります。
腹部を圧迫していないか、食事動作での疲労がないか、姿勢保持ができる状態かを評価して、適切な食事時の姿勢に調整していきましょう。
また、集中力が低下している場合は、周りの環境からの刺激を減らした方がいいのか、加えたほうがいいのかを評価して環境調整を行いましょう。

今回、ご紹介したのは、「患者さんが食べてくれない」と感じたときの看護師が行うケアの一部分です。食べられない理由には、身体的・精神的・社会的に様々な要因があります。排便コントロール、運動習慣、食形態や食事量の調整なども同時に必要になることも忘れずにおきましょう。さまざまな角度から患者さんをアセスメントし、共に食べる支援を行っていきましょう。


ライタープロフィール

【西依見子】
食べることと生きる力をつなげるTaste&See 代表。慢性疾患看護専門看護師、摂食・嚥下障害看護認定看護師の資格を用い各施設へコンサルテーションを行っている。「食べたほうがいいのか、食べないほうがいいのか?」といった現場の疑問を解消すべく、スタッフが、口腔ケアを含めた「食べること」への理解を深めるサポートを提供。現在、『コンサルタントナースのスペシャリスト応援ブログ』というブログを配信中。

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