いまや5~6人に1人が糖尿病やその可能性1)2)があるといわれています。糖尿病の三大合併症といえばご存知の通り糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症・糖尿病性腎症。今日はこの中で最も早く出現すると言われる糖尿病性神経障害を、モノフィラメントという器具がなくても確認できる方法をご紹介します。
ぜひ最後までお読みいただき、機会を逃さないで介入していただけたら嬉しいです。
目次
抹消神経障害はあなたの手でも確認できる
看護学生の頃「モノフィラメント5.07(約10gの圧)で確認する」と教えられたと思います。客観的指標として知覚テストの基本であり、臨床でもモノフィラメントを使ってきたのではないでしょうか。
モノフィラメントには先のナイロンの太さに種類があり、その太さによって皮膚へどのくらいの圧がかかっているか示されています。この写真のものは最もポピュラーな太さ、5.07というもので10g圧がかかるとされています。
ただ、常に手元にないためにチェックするタイミングを逃しやすかったのも事実ではないでしょうか。個人的には不便を感じていました。
しかし、道具がなくてもあなたの手で行えるテスト方法があったのです。それは「Act Against Ampulation(通称AAA)3分間 足病チェック」の中で紹介される「The Ipswich Touch Test3)」という方法です。この方法はモノフィラメントと同等な結果が示されています。
◉The Ipswich Touch Testの方法
手順1 患者さん(利用者さん)に眼をつぶってもらう
手順2 検者は示指で被検者の 両足の母趾、中趾、小趾 の先端を順に軽く触る
手順3 6箇所のうち2箇所以上 わからなければ 神経障害ありと判定
*注意
①看護師は診断することはできません。患者さんへ伝えるときの表現は注意しましょう。
②指標として活用する場合は医師を含めてチーム間で共通認識をもってからの活用をお勧めします。
The Ipswich Touch Testをおすすめする2つの理由
理由1:どこでも、誰でも行える
モノフィラメントは検査器具なので高価なため、訪問看護や高齢者施設になかったり、医療機関でも数は限定されていることが考えらます。そのため、もしモノフィラメントが手元になかったとしても「The Ipswich Touch Test」で状態を確認できます。プライバシーへの配慮を忘れなければどこでも、誰でも行えます。
理由2:実施する医療・福祉従事者から周囲への波及効果
・患者さんへの波及効果
1)患者さんは自身の健康状態を理解するきっかけにもなります。
2)医療従事者とともに足の感覚へ意識を向ける機会が増えることで独りでも生活場面での意識につなげる手がかりとなります。合併症に関する意識向上も期待できます。
3)医療従事者側の「あなたの体を心配しています。気にかけています」というメッセージになります。
4)定期的に確認し、事実をお伝えすることで「経過」を意識します。
5)結果がどうであれ、その結果をもとに療養の動機付けの一つとすることができるのです。
・スタッフへの波及効果
1)糖尿病の合併症について学ぶ機会となります。
2)医師にお任せではなく、医療福祉従事者の自立的療養支援の意識を高めます。
3)療養や生活の場がどこであっても支援者が意識することの波及効果を感じるきっかけになります。
*注意
モノフィラメントのように客観的に評価できる検査器具が手元にあり、正しい使い方を習得していれば活用されると良いでしょう。
「自分で何もしないわけにはいかない!」
2型糖尿病歴8年ほどの50代女性、外来へ定期受診していましたがHbA1c値8%台が続き、良いコントロール状態とは言えませんでした。ある日、生まれ月に看護外来を受けていただき、療養生活についてやThe Ipswich Touch Testを含めた足の現状確認をし、療養や足ケアのコツの伝授など行いました。
終了時「感覚も落ちていないことがわかったので安心したし、来年も変わらないように血糖コントロールに気をつけないとね。合併症は知っていたけど実際には足を気にしていなかったな、と反省しました。看護師さんにこんなに大事に看てもらっておいて自分で何もしないわけにいかない。」
私たちがどのように足(身体)に触れ、どんなことを心配して観察しているかを伝わるように示すことで、患者さん自身の療養への想いや自尊心にまで影響を及ぼすことが少なくありません。The Ipswich Touch Testはそのひとつの手段といえます。
この事例は看護師の姿勢から「足(身体)を労る方法」や「労る意味」を患者さんが感じ取り、行動変容の動機付けになりました。
自分の身体状態の理解と需要を促す手段は複数あったほうがいい
モノフィラメントが常にポケットに入っているナースはおそらくいないと思います。しかし、糖尿病を抱えた方は必ずと言っていいほどいらっしゃいます。The Ipswich Touch Testのように「患者さんの感覚」に働きかけるケアを手に入れて、療養支援の幅を広げ看護に活かしましょう。行動変容の動機付けにも有効です。
「専用の器具がないからできない」は今日で卒業! The Ipswich Touch Testで患者ごとに異なる今必要な合併症に対する関わりをタイムリーに提供していきましょう。
まとめ
糖尿病の合併症は「し(神経障害)・め(糖尿病性網膜症)・じ(糖尿病性腎症)」の順で発症すると言われています。合併症の発症確認だけでなく患者さんの意識を高めるために、1年に1回お誕生月等に私たち医療従事者が足に意識を向けてみてはいかがでしょうか。ここでは記載していませんがどんな靴を履いているかも重要です。ぜひ併せて確認!完治しない病だからこそ、年に一度でも継続したアプローチが大きな意味をなすのです。
引用参考文献
1)厚生労働省:「令和元年国民健康・栄養調査」2020年12月
2)総務省:「人口推計2019(令和元年)-全国」
3)Rayman, G., et al., The Ipswich Touch Test: a simple and novel method to identify inpatients with diabetes at risk of foot ulceration. Diabetes Care, 2011. 34(7): p. 1517-8.
ライタープロフィール
【木嶋千枝(きじまちえ)】 Abeby 代表/大誠会内田病院
健康維持や健康寿命延伸には身体の基礎部分である足や靴が重要で、靴の履き方や選び方などの生活習慣が要なんだと声を大にする慢性疾患看護CNS。
自分らしいと思える時間を積み重ねてもらうためには足育が必要だと一念発起し、病院を飛び出し2019年Abeby起業。寄り添う看護を目指して取得した日本認定心理士や日本糖尿病療養指導士としての知識や技術を最大限に活かして、啓発活動や教育にも力を注いでいる。子どもとおとなの足靴カウンセリングサポートを群馬の自宅で開始。
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